転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「構いませんわ」



 まさに今、私も同じことを考えていた。お父様がかろうじて伯爵の身分を保っておられるため、一応はローズも、まだ社交界に出入りする資格があるのだ。とはいえ、バルバラ様の一件は皆様ご存じだから、誰もローズを相手になどしないのだけれど。神経が鋼でできている彼女は、全く堪えていない様子なのである。



「ちょっと、どういうことですのっ」



 ローズが、金切り声を上げる。



「横暴にも、程がありますわ! 私が、何をしたと……」

「一体、何の騒ぎです?」



 振り返れば、マルク殿下が心配そうに部屋をのぞかれていた。ローズを見た殿下は、先ほどアルベール様が彼女に気付いた時と、同じ表情をされた。ご兄弟だけあって似ているわ、とこんな状況なのに思ってしまう。



「マルク殿下!」



 どうにか立ち上がったローズは、殿下の元へ駆け寄った。



「聞いてくださいませ! このお二人は、ひどいのですわ。私に、社交界から出て行けと仰るのです。アルベール様なんて、足を引っかけて私を転ばせたんですのよ!?」

「――すまないが、頭痛がしてきたので」



 マルク殿下が、さっと踵を返される。だがローズは、しぶとく彼にすがった。



「殿下まで、私をお見捨てになるのですか!? 鷹狩りのパートナーを、お務めした仲ではございませんか。あの時、私は本当に幸せでしたのよ。だって、あなたの妻になることを、ずっと夢見てきたのですもの……」



 アルベール様が、ぼそりと呟かれる。



「右腕が使えないのが、悔やまれる。今この場で、斬り殺したい」

「ローズごときのために、あなたが殺人者になることはございませんわよ」



 なだめるようにそう告げると、私はローズの元へ駆け寄った。彼女を、マルク殿下から引き剥がそうとしたのだ。だがその時、殿下が静かに仰った。



「そのお考えは、今もお変わりありませんか? 私の妻になりたい、というのは」



 形勢が変わったと思ったのか、ローズが目を輝かせる。



「ええ! もちろんですわ」

「そうですか」



 マルク殿下は、ゆっくりとローズの方を振り向かれた。



「そのお気持ち、謹んでお受けします。ローズ嬢、あなたを王太子妃としてお迎えしましょう」



(マルク殿下……!?)



 私は、目を剥いた。まさか、本気で仰っているのだろうか。その時、私は気が付いてしまった。マルク殿下とアルベール様が、意味ありげに目配せを交わされるのを。
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