転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

5

 メインの応接間は、アルベール様とマルク殿下がお使いなので、ローズは別の小さい応接間に通すことにした。お茶を待つ間、ローズははしゃぎっぱなしだった。それもそのはず、ミレー邸の調度品の素晴らしさといったら、サリアン邸とは雲泥の差である。



「何もかも、豪華ですわねえ! あの壺、一体おいくらくらいするのかしら?」

「止めなさい! みっともない」



 今さらだけれど、これが私の妹だと知られるのは恥ずかしい。お茶さえ飲ませたらとっとと帰らせよう、と私は頭を巡らせた。するとそこへ、アルベール様がお顔をのぞかせた。



「モニク。申し訳ないが、重要な話をしているので……」



 静かにせよと、告げに来られたのだろう。彼は、ローズを見たとたん固まった。見てはいけないものを見てしまった、そうお顔に書いてある。



「まああっ。アルベール様」



 アルベール様の不快そうな表情に気付かないローズは、立ち上がって彼の元へ駆け寄った。



「いえ、お義兄様とお呼びしなければいけませんわね。私、本日、お二人のご婚約祝いに参りましたのよ」

「それは、ご丁寧にどうも」



 慇懃に、アルベール様が答えられる。ローズは、なおも続けた。



「アルベール様って、国王陛下のお血筋でしたのねえ。道理で、高貴なお顔立ちをしてらっしゃると、前から思っていたのですわ」

「最後にお話しした時には、いかにもな犯罪者面と言われた気がするのですが」



 一瞬、ローズが詰まる。アンバー殺害事件の後、黒髪の男が目撃されたという噂をローズはことさらに広め、アルベール様犯人説を声高に唱えたのである。



「さらに言えば、私が妾腹の子だという噂を社交界に広めたのも、あなたとそのお母上だったと記憶していますがね」

「さ、さあ……。あいにく、覚えておりませんが……」

「では、私の記憶違いだと?」



 アルベール様が、冷ややかにローズを見すえられる。



「いえ、その……」

「わざわざお祝いに来て下さったお心遣いには、感謝します。ですがそれよりも、ご自身の身の振り方を考えられては? これは、義兄(・・)としての忠告です」



 皮肉たっぷりの言い方だが、ローズには通じなかったらしい。逆に、顔をほころばせた。



「私を心配してくださるんですの!? アルベール様って、お優しいんですのね……。お礼に、何かして差し上げられることはございませんかしら?」



 そこでローズは、アルベール様の吊られた腕に目を留めた。



「お怪我をなさったのですか? お労しいこと……。そうだわ、私、マッサージが得意なのです」



 言いながらローズは、厚かましくもアルベール様の腕に手を伸ばす。さすがにカッとなった私は、怒鳴りつけた。



「あなた! 人の婚約者に何をするのよ! アルベール様に……」



 触らないで、そう言いかけたその時だった。



「きゃあっ」



 ローズは、無様に転倒した。アルベール様が、足を引っかけたのだ。ローズが、血相を変える。



「何なさるんです!!」

「俺に触っていい女は、モニクだけだ」



 床に倒れ込んだローズをにらみつけながら、アルベール様は吐き捨てるように仰った。そして、私の方をご覧になった。



「あなたの妹君だからと思って我慢してきたが、もう限界です。許しもしないのに男の……それも結婚が決まった男の肌に触れるような女には、虫唾が走る。ローズ嬢にはミレー邸はもちろん、社交界への出入りを禁じるが、それでいいですか」
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