転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 再び、ミレー夫妻が沈黙される。するとエミールは、おずおずと言い出した。



「違っていたら、ごめんなさい。……恐れ多い質問ですが、もしやジョゼフ五世陛下ですか」

「なぜそう思う?」



 そう尋ねられたのは、アルベール様だ。エミールは、思いつめたような表情で語り始めた。



「鷹狩りの際、女装した僕に、陛下はとても興味を持たれました。僕によく似た女性を昔知っていた、と仰ったんです。兄様の件もあるし、もしや、と……」



 ミレー公爵は、深いため息をつかれた。



「陛下のご許可を得ないうちに秘密を明かすべきでないのは、わかっているが。もう、誤魔化すことは難しそうだな。……皆、来てくれ」



 私たち五人は、公爵の書斎に集まった。公爵は、静かに語り出された。



「エミール、お前の推察通りだ。十三年前、ジョゼフ五世陛下はテレザ嬢という女性を寵愛された。当時、王妃殿下はまだご存命だった。彼女の嫉妬を恐れた陛下は、秘密裏に子を産ませ、私たち夫妻に託されたのだ」



 つい先日、そっくりなお話を聞いた気がするのだけれど。エミールが、アルベール様に尋ねる。



「兄様は、ご存じだったのですか?」

「お前が、実子でないということはな。ただ、父親のことまでは知らなかった」



 エミールは、一瞬沈黙した後、静かに尋ねた。



「テレザという僕の実の母様は、今どうされているのです?」



 ミレー公爵は、苦しげにお顔をゆがめた。



「大変言いづらいが、亡くなった。お前が五歳の時、ご病気で。……つまり、アルベールにこの手紙を書いた後だ。この屋敷に来られたのは、ご自分の死期を悟られたから。最後に一目、お前の姿を見たかったそうだ」



 エミールがうつむく。公爵は、慌てたように立ち上がられた。



「エミール。お前に、母様の形見をやろう。ずっとお預かりしていたものだ」



 そう言って公爵は、二つの小箱を取って来られた。



「こちらは、エレーヌ嬢が持っておられたものだ。近々、アルベールにも渡そうと思っていた。良い機会だから、今渡そう」

 

 ミレー公爵は、アルベール様とエミールに、それぞれ小箱を手渡された。二人が、同時に蓋を開ける。そして無言になった。それはどちらも、ロケットだったのだ。
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