転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 扉を開けると、エミールが立っていた。真剣な面持ちだ。



「今、よろしいですか?」

「入れ」



 アルベール様が、短く答えられる。エミールは、つかつかと部屋へ入って来ると、彼のベッドの傍へ近寄った。思いつめたような表情で、口を開く。



「兄様。ずっと思っていたのですが……。兄様は、王太子になりたくないのではないですか」



 アルベール様が、私のお顔をご覧になる。私は、とっさにかぶりを振っていた。



「私、何も言っておりませんわよ!」

「じゃあ、俺はそんなにあからさまな態度だったですかね」



 アルベール様は微苦笑されたが、エミールは至って真面目な様子だった。



「兄様の様子を、ずっと観察していればわかります……。だからね、もしよければなのですが」



 一瞬言いよどんだ後、彼はアルベール様の目を見て、きっぱりと告げた。



「僕、王太子に立候補しようと思います!」



 私たちは、一斉にぽかんと口を開けた。



「……馬鹿を言うな。お前は、まだ十二だろう!」

「あのね、立候補してなれるものじゃないわ。政治家じゃないんだから」



 私たちは口々に言い聞かせたが、エミールは頑なに言い張った。



「国王陛下の血を引いているのだから、僕にだって資格はあるでしょう。幼いと仰いますが、五年もすれば、僕は十七歳になります。現陛下は五十歳、まだまだお元気でいらっしゃる。少なくとも、五年以内に崩御、なんてことは考えられませんよ」



 その口調は、驚くほどしっかりしていて、私たちは顔を見合わせた。



「……小さい小さいと思っていたが、いつの間にか頼もしくなってきたな」



 アルベール様は、感慨深そうに仰った。



「とはいえ、じゃあ任せるというわけにはいかない。俺を気遣ってくれる気持ちはありがたいが、だからといってお前が身代わりになる必要は無い」

「それだけではありません」



 エミールは、きっぱりとかぶりを振った。



「鷹狩りの際、国王陛下とはいろいろなお話をしたのです。モルフォア王国をさらに発展させるためのアイデアを、陛下はたくさん語ってくださいました。陛下には、ある夢がおありなのだとか……。昔、僕によく似た女性に同じ話をなさったことがあるそうで、懐かしいと仰っていました。――今にして思えば、僕の母様だったのでしょうね」



 確かにあの時、陛下はエミールと長らく話し込まれていたが。そんなお話をなさっていたとは。



(陛下、子作りに励まれていただけの方では無かったのね……)
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