転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「いや、あれは言葉の綾というか……」

「色事師みたいな真似を、なさってたんですものねえ」



 微笑みながらずんずん近付くと、アルベール様は後ずさった。



「ですからあれは、昔のことで……」

「さあ、どうかしら。よく考えたらアルベール様は、あのジョゼフ五世陛下の血を引かれているのですものねえ。嫌ですわよ、私。あなたの肖像が入ったロケットを持った女性が大勢現れたり、あなたによく似た幼子が大量出現したりしたら」



「そんなことあるわけないでしょう!」



 ヤケクソのように、アルベール様がわめく。



「恋愛している暇なんて無かったって言ったでしょう。女性には、バールのことを調べる目的で近付いただけですよ。そこに感情なんて無かったし、後腐れ無く別れて……」



 言葉の途中で、アルベール様はハッとしたように口をつぐまれた。



「……どうされたのです?」

「いえ。俺のしてきたことは、ドニ殿下と同じだな、と今さらながら気付いて……」



 アルベール様のお顔が曇る。ふう、と私はため息をついた。



「さすがご兄弟ですわね」

「モニク……」



 アルベール様が、どんどん青ざめていく。くっと私は笑った。



「冗談ですわよ。殿下とあなたは違います。無関係な人を陥れたり、殺したりはしていないでしょ? 誰も愛することが無かった彼と違って、あなたには人を思いやる心がありますわ」



 彼は、ほっとしたように微笑んだ。



「そう言ってくれて、嬉しい。確かに、過去に俺がした所業は褒められたものじゃありません。でも、女性を愛したのはあなたが初めてだし、これからもずっと、あなた一人です。誓いますよ」



 じわりと、胸が熱くなる。赤くなった顔を見られないように、私は後ろを向いた。アルベール様が、私を背後から優しく抱きしめる。



「じゃあ、食事の続きを……」



 私の機嫌が直ったと思ったのか、アルベール様は、打って変わって弾んだ声音でそんなことを言い出された。何だかカチンときた私は、そっと彼を振りほどいた。



「左手で召し上がってくださいませ」



 言い捨てて、部屋をスタスタと出る。やっぱり、少しだけ意地悪をしてやりたい気分だったのだ。
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