転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 アルベール様の心の内など、露ほども気付かないご様子のデュポン侯爵は、ひたすら恐縮なさっている。



「では、お言葉に甘えましょうか。確かに、人手が足りないかとは思っていたのです。本当にありがとうございます」

「とんでもありません。偉大なる研究のお役に立てて、光栄ですよ」



 もはや、完全にアルベール様のペースだ。私は諦めて、モーリスと話を始めた。



「ところで、お父様の行方はまだわからないのかしら?」



 お父様は、親類の家をたらい回しにされていたが、とうとう最後の家からも追い出されたそうなのだ。モーリスが、嘆かわしそうにかぶりを振る。



「私も気にはなっているのですが、ご所在不明で……」 



 その時ふと、会場が静まりかえった。入り口の方を見やって、私は驚いた。入って来られたのは、マルク殿下だったのだ。皆が、一斉に道を空ける。



「殿下。お越しいただき、ありがとうございます」



 アルベール様と私は、彼の元に駆け寄ると、丁重にご挨拶申し上げた。アルベール様が、声を落として尋ねられる。



「ご体調はいかがですか」

「良いとは言えませんが、今日だけはと医師を説き伏せました。どうしても、この場に来たかったのですよ……。大切な弟と、命の恩人の女性の結婚式ですからね」



 殿下が微笑まれる。式典終了後、殿下は政務から離れ、本格的な療養生活に入られたのだ。私たちは、何だか胸がつまった。すると殿下は、私をチラとご覧になった。



「そうそう、ローズ嬢ですが。大分ご苦労されているようで」

「そうでございましょうね……」



 マルク殿下はあの後、本当にローズを王太子妃として迎えられたのだ。とはいえ、彼女を待っていたのは、地獄の王太子妃教育である。しかも、基本のマナーがなっていないローズは、私の時の三倍のメニューを課されたらしい。何でも、ほぼ徹夜で取り組まされているとか。



「与えるべき課題は、山ほどありますからね。今日も、缶詰状態です」



 殿下は、けろりと仰った。ローズが王太子妃として迎えられたのは、形だけなのだ。殿下は、彼が存命の間中、彼女に王太子妃教育を続けるようにというご命令を下された。理由を付けては教育期間を引き延ばし、妃として活動させるおつもりは無いという。療養中の殿下とは、褥を共にすることも無いそうだ。
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