転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 私は、アルベール様の袖を引っ張ると、小声で尋ねた。



「あの、ミレーのご両親は、ご承知で?」

「説得して、押し切りましたよ。改装費なら俺が出します。新妻を他の男の家に行かせる馬鹿が、どこにいるんです!」



 声を潜めてそう仰ると、アルベール様はデュポン侯爵の方を向き直られた。作ったような笑みを浮かべておられる。



「それでですね、デュポン様。ご研究には、さぞや人手の要ることと存じます。そこで、有能な秘書を推薦したいのですが、いかがでしょうか。差し出がましいこととは思いましたが……」



 そう言って、アルベール様が手招きなさる。やって来た人物を見て、私は目を丸くした。それは、モーリスだったのだ。



「モーリス!?」

「またモニクお嬢様のお側で働けるなんて、夢のようでございますよ」



 微笑んだ後、モーリスは、私の胸に飾られたブローチに目を留めた。



「エメラルドは、やはり効力を発揮しましたね。『愛の成就』。よかったですな、嬢ちゃま!」

「え、ええ、ありがとう……」



 モーリスと再会できたのは純粋に嬉しいが、今はこの事態を把握させてもらいたい。しかし、戸惑う私に構わず、アルベール様はどんどん話を進めていらっしゃる。



「このモーリスは、代々サリアン伯爵邸に仕えてきた執事の家の出で、本人も大変優秀なのです。私が、保証しますよ。ちょうどサリアン邸を辞めた後で、タイミングも良かった」

「そんな人を、私の秘書にと?」



 デュポン侯爵は、感動したようにモーリスを見ておられる。アルベール様は、にこやかに頷かれた。



「ええ。きっと、デュポン様のお役に立つことと存じます。妻も、気心知れた人間が身近にいれば、リラックスして研究に励めるでしょうし」



 そりゃ、モーリスが一緒にいてくれたら、私も嬉しいけれど。でも、と私はアルベール様をにらみつけた。



(絶対、監視役のつもりですわよね。私、それほど信用が無いかしら……?)
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