転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 お父様は、姿勢を改めると、アルベール様に向かって平伏した。



「申し訳ございませんでした。心を入れ替えますので、連座制だけは何卒お許しを……」



 アルベール様は、ひとつため息をつかれた。



「誤解しないでいただきたいのですが、別に私は、あなたを処罰したいわけではありません。ですがはっきり申し上げて、あなたにまともな領地経営ができるとは思えません。頼りになる執事さんも、もういないことですし……」



 そこまで喋ってから、彼はチラと私をご覧になった。



「でしたらいっそ、全てをお譲りになられてはいかがですかね。爵位に、領地。唯一(・・)の、あなたの血を引かれる娘さんに」



 お父様は、顔色を変えた。



「私に、平民になれと言うのかっ」

「どう見ても、あなたの今の生活は、平民以下でしょう。私も、義理の父親がこんな状況でいることには、耐えられません……。ということで、いかがでしょうか」



 アルベール様は、にっこり笑われた。



「今、私たち夫婦は、ミレー邸の離れで暮らしているのですが。庭師の人手が足りないのですよ」

「わ……、私に、庭仕事をしろと……?」

「働かざる者、食うべからずと申しますし。このまま浮浪者生活を続けるか、労働して相応の対価を受け取るか。さ、二択ですよ」



 どっち、とアルベール様が首をかしげる。ややあってお父様は、頭を垂れた。私は、ハッとした。



(あの時と、同じだわ……)



 あのバール男爵殺しの夜。嘘のアリバイを作って生き延びるか否か、私に迫った時。彼は同じ台詞を吐いて、同じ笑みを浮かべていた。



「ふふ」



 私は、思わず笑いを漏らしていた。アルベール様が、怪訝そうになさる。



「どうしました?」

「――いえ。アルベール様は本当に、人を動かすのが上手くていらっしゃるわ……。私、ずっとあなたに振り回され続ける気がします」

「まさか」



 アルベール様は、私の手を固く握った。



「振り回されているのは、俺の方ですよ。――一生、ね」



 違うわ、と私は思った。あの時、二択で正しい方を選んで、本当によかった。あの提案に乗らなければ、私は彼との未来どころか、未来そのものを失っていたかもしれない……。



 前世の記憶と、アルベール様の存在に感謝しながら、私は立ちこめる木々の香りを、胸いっぱいに吸い込んだのだった。 
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