転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

17

 ――五年後。



 モルフォア王国ジョゼフ五世陛下は、五十五歳で崩御された。思いがけない若さでのご逝去に、国民は、相次ぐ息子たちの死が堪えたのだろうと噂した。



 そして、十七歳のエミール一世が誕生した。奇しくも、彼が王室入りする際に例えた年齢と同じであった。新国王は、さる公爵令嬢を王妃に迎えると同時に、ミレー邸で侍女をしていた、二歳年上のアンヌ嬢を側妃に迎えた。その際彼は、『王妃と側妃たちの間にトラブルが起きぬ王室を作る』と宣言なさったのだとか。





たち(・・)ということは、今後も迎えられるということですわねえ」



 その日、離れの庭で並んで腰かけながら、私はアルベール様に語りかけた。



「でしょうね。しかしあいつは、年上好みだったんだなあ。モニクに目を付けなくてよかった」



 心底安堵したといった様子で、彼が答える。



「アルベール様だって、私より年下じゃございませんの。あなたも、年上好みなのでは?」

「違いますよ。俺は、あなただから好きになったのであって……」



 アルベール様が私に口づけようとしたその時、可愛らしい声が聞こえた。



「かあさま!」



 同時に、トタトタという軽い足音がする。三歳になる私たちの長男、マルクが走って来たのだ。植物図鑑を抱えている。



「ごほん、よんで!」

「母様はお忙しいんだ。あまりわがままを言うな」



 アルベール様が、たしなめられる。私は今や、サリアン女伯爵であり、モルフォア王国国立庭園副園長なのだ。そして、エレーヌとマルクという、二児の母でもある。



「代わりに父様が、剣を教えてやろう。どうだ?」



 アルベール様はそう仰ったが、マルクはかぶりを振った。



「けんはきらい」



 どうやら彼は私に似て、体を動かすことよりも、植物の世話や読書の方が好きらしかった。アルベール様も、それは薄々察しつつあるらしい。残念そうなお顔をされた。



「我が子には、剣を教えるのが夢だったんだけれど。三人目に期待するかなあ」

「あら、意外とエレーヌは好きかもしれませんわよ。女騎士になったりして」



 クスクス笑っていると、ちょうど侍女が、エレーヌを連れてやって来た。すると、植木の世話をしていたお父様が、すっ飛んで来られた。



「エレーヌや! おじいちゃんだぞ」

「まだ休憩時間では無いぞ!」



 びしっと叱りつけるのは、モーリスだ。今やお父様は、モーリスに使われる毎日なのである。



「お父様もねえ。もう少し人を見る目がおありになれば、よかったのですけれど」



 モーリスに引きずられて行くお父様を見ながら、私はため息をついた。するとアルベール様は、こんなことを言い出された。



「モニク、少し似ていますよ」

「私が? 人を見る目が無いと?」

「ドニ殿下の本性を見抜けずに、憧れてらっしゃった」

「いつの話をなさってるんですの」



 呆れていると、エレーヌがくいくいと私の袖を引っ張った。



「おかあさま。エレーヌね、昨日の夜、不思議な夢を見たの」

「あら、どんな夢?」



 私とアルベール様は、エレーヌの顔をのぞき込んだ。



「『にほん』という国に住んでいるの。エレーヌは、なかなかこうしたいって言えない子で、いつも妹に負けてしまうの。でもね、すごくやさしくてカッコいいお兄さんが、妹よりエレーヌのことをほめてくれて。エレーヌ、その人にあこがれているの。でもある時、エレーヌよりも小さい男の子が現れて。その子は、あんまりやさしいことは言わないけど、エレーヌが困った時はいつも助けてくれる……」



 アルベール様が、血相を変えて立ち上がる。



「で!? エレーヌは、どっちを選んだんだ!」

「アルベール様。夢の話でしょう」



 なだめながらも、私はぎょっとしていた。エレーヌもまた、前世は日本女性だったのだろうか……。



「エレーヌ、忘れちゃった」

「忘れるな! そこは、大事な所なんだ。思い出せ!」



 アルベール様が、必死にエレーヌに取りすがる。そんな二人と、植物図鑑を読みふけるマルクを見つめながら、私は考えていた。



(どんな前世でもいい。でも、前世の過ちは繰り返さないでね。失敗は反省し、成功は来世に活かす。あなたたちには、そんな人生を送って欲しいわ……)



                                         了

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