転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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『モニク、おめでとう。お前の嫁ぎ先が決まったぞ。オーギュスト・ド・バール男爵だ』



あれは十日前だったか、もっと前だったか。お父様・サリアン伯爵が、私に向かって作り笑顔を浮かべたのは。



『お前よりはちょっと(・・・・)年上だが、その分頼もしくて包容力があることだろう。何より、資産家でいらっしゃる。存分に、贅沢ができるぞ』



 最後に本音が出たな、と私は思った。我がサリアン家の経済状態が火の車なのを、私が知らないとでも思っているのだろうか。金儲けに長け、男爵の爵位も金で得たような男に嫁がせるのは、そのために決まっている。嫁いだ暁には、さぞや実家への援助を無心されるに違いない。ちなみにバール男爵は四十八歳、私より二十五も年上だ。二十五年といえば、四半世紀ですわよ。そこをわかっておられるのかしら、お父様。



『モニク、待った甲斐がありましたわねえ。素敵なお相手で、よろしかったわ』



 わざとらしく微笑むのは、義母のバルバラ様だ。私の実のお母様が早世した後、お父様が後妻に迎えた女性である。ちなみに我が家の劣悪な経済状態には、彼女の浪費癖も多分に影響しているのだが。どの口が『素敵なお相手』と言うか、と私はむすっと黙り込んだ。



『私も心配しておりましたのよ、お義姉様。これで私も、安心してお嫁に行けるというものです』



 大げさに胸に手を当てるのは、お父様とバルバラ様の間に生まれた義妹・ローズである。はい、本音二つ目。ローズは十六歳だが、母親似の華やかな美貌ゆえに、青年貴族らの間では引く手あまたである。お父様とバルバラ様は、彼女をここぞとばかりに名家に嫁がせようと、張り切っておられるのだ。



 だが、さすがに長女の私より先に、妹のローズが結婚というわけにはいかない。何とか私を片付けようと、彼らが知恵を巡らせた結果が、今回の縁談である。オーギュスト・ド・バール男爵は、単に高年齢というだけでなく、強欲で品性に欠ける上、女性にはだらしないと、悪評名高い男だ。おまけに、さる貴族の未亡人・シモーヌ夫人との長年の付き合いで、私との婚約話が持ち上がってからも、別れる気配は無い様子である。



 要するに、少しも心躍らない縁談である。それでも私が異議を唱えなかったのは、言っても無駄ということもあるが、他に結婚のあてが無かったからだ。私は、亡きお母様に似て顔立ちは地味だし、髪だって艶の無いくすんだ赤毛だ。おまけに性格は引っ込み思案で、男性と気の利いた会話の一つもできやしない。



(こんな私でも、妻に迎えようという男性が現れたのだ。心を込めて、お仕えしよう)



 私は、そう覚悟を決めたのだった……。
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