転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 私は、ふるふるとかぶりを振った。



「凶器なんて……、私、持っておりません!」

 

 多分、と心の中で付け加える。女性のドレスって、結構トリッキーな隠し場所が多いですもの。



「でしょうね」



 アルベール様は、案外あっさり納得された。



「あなたは、返り血だって浴びていませんしね。もちろん、着替えたという可能性もあるけれど……。でも、あなたは犯人では無いでしょう」

「信じてくださるのですか!?」



 私は、思わず大声を上げていた。これ以上無いほど怪しい状況で、おまけに記憶が無い、とまで白状しているのに……。



「ええ。あなたはそんな人ではないと、信じていますから」



 アルベール様の優しいお言葉に、胸が熱くなる。だが彼は、こう続けた。



「普段のモニク嬢を見ていれば、わかりますよ。人の顔色をおどおどとうかがってばかりで、ご家族やご友人の言うなり。卑屈で、気弱で。そんな人間に殺人なんて、できるわけが無いでしょう」

 

(え、これ、確実にけなされてますわよね……?)



「とはいえ」



 ムッとする私に構うことなく、アルベール様は話し続けている。



「今のは俺の持論。動機から考えたら、あなたは第一容疑者でしょうね。婚約披露パーティーのまさにその夜、婚約者が浮気していたのだから。彼とその相手に殺意が湧いた、と思われても仕方ないでしょう」



 そうだよなあ、と私はうなだれた。ここは、日本と違うのだ。防犯カメラも無ければ、鑑識もいない。殺人犯として捕らえられ、処刑されるのは目に見えていた。



「もう諦めモードですか? 無実かもしれないのに、みすみす捕まると?」



 アルベール様が、じっと私を見つめる。その口調に揶揄するような響きを感じて、私はカッとなった。



「じゃあ、どうすればいいというのです? 記憶を失って、アリバイも証明できないというのに……」

「なら、アリバイを作ればいい。協力しますよ」



 何でもないことのように告げると、彼は私の元へつかつかと近付いて来た。



「俺は今夜、ずっとあなたと一緒にいたと、証言しましょう。……そうだな、こんな設定では? 俺とあなたは愛し合っていたが、あなたは他の男との結婚が決まった。そこで婚約披露の夜、皆の目を盗んで抜け出して、束の間の愛を確かめ合っていた……。ちょうど、この二人と同じようにね」



 私は、言葉を失った。
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