転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 地獄のコルセットタイムが、ようやく終了した。あまりの辛さに、その最中はコレットを恨みたくなった私だが、姿見を見ておやと思った。私とは思えないくらい、美しいスタイルに仕上がっていたのだ。コンプレックスだった貧乳は、ほどよく綺麗に盛り上がっている。侍女の技術でこんなに変わるものか、と私は感心した。



「……ありがとう。何だか、別人みたいだわ」

「ここで満足されてちゃいけませんよ。次は、ヘアメイクです!」



 コレットは、ここでも技量を発揮した。艶が無いのが悩みだった私の赤毛を、彼女は美しく盛り上げてくれた。香油と付け毛を多用したのだという。礼を述べると、彼女はにこりと笑った。



「素地がおよろしいのですから、自信を持ってください」



 賢い娘らしく、コレットは前の侍女の悪口は言わなかった。だが、内心ではそう言いたかったに違いない。アンバーは、やる気が無かったのだろう。もっとも、それは私も同罪だ……。



 メイクは、やや濃いめだった。派手な気もするが、元々の地味な顔立ちを考えれば、これくらいでちょうど良いのかもしれない。髪の色に合わせた暗い赤のルージュと、付けぼくろを付けておしまいだ。ずいぶんと、大人っぽく見える。



「最後は……、こちらですね」



 コレットは、ゴールドのネックレスを選ぶと、胸元に飾ってくれた。



「赤と金色は、相性が良いのですよ」

「知らなかったわ」



 彼女からは、学ぶことばかりだ。私は感心した。



「さて、香水は……、どれにいたしましょうかね」



 コレットは、鏡台の上に並んだ瓶を、あれこれと手に取った。



「あら……、これは?」

「ああ、それは違うのよ」



 アルベール様がくださった香水を選びかけたコレットを、私はあわてて止めた。



「安眠用に使っているものなの……。アルベール様からいただいたのよ」

「あ、道理で見覚えのある瓶だと思いました!」



 コレットが、ぽんと手を叩く。



「この種類の香水を扱っている商人、アルベールのお母様の、御用達ですもの」

「……詳しいのね?」



 アルベール様とコレットは、母親同士が姉妹だと言っていた。ミレー公爵夫人に対するその他人行儀な言い方からして、コレットはやはり、アルベール様の実母の方の従妹なのだろう。



 とはいえ、ミレー家に詳しいのだな、と私は疑問に思った。それに、前から思っていたが、コレットはアルベール様を呼び捨てにする。それほど親しいということか。



(嫌だわ。私、嫉妬してる? コレットは、こんなに私に尽くしてくれているのに……?)
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