転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

17

 アルベール様は、私とエミールに書類を見せてくださった。ミレー公爵のスケジュールと、ティリナの地図が書かれている。すると、エミールがこう言い出すではないか。



「それ、僕が行きます!」 

「はあ、何を言ってる? 行かせられるわけないだろう」



 アルベール様は一刀両断されたが、エミールはここでもしぶとかった。



「子供だと思って、見くびらないでください。聞き込みくらい、できますから。それに兄様、この期間って、国王陛下ご主催の鷹狩りがなかったでしたっけ? 兄様、父様の代理で参加されるとか、仰ってませんでした?」

「ええ、そうでしたの?」



 思わずアルベール様のお顔を見つめれば、彼は決まり悪そうな顔をした。



「構いませんよ。欠席しますから」

「そんなことはいけませんわよ!」



 私は、つい大きな声を上げてしまった。



「そんな真似をなされば、陛下のご不興を買いますわ。それでしたら、私がティリナへ行って、聞き込みをして参ります。自分のことですもの」

「それはダメです!」



 アルベール様は、びしりと私を怒鳴りつけた。その眼差しは、厳しかった。



「あなたを犯人に仕立てようとしている人間がいるのを、お忘れですか? 旅になど出ようものなら、格好のチャンスとばかりに、命を狙われますよ。死人に口なしで、容疑者扱いのまま死亡、なんてことになってもいいんですか。そんな危険な真似を、させられるわけがありません!」



 そう言われると、私には返す言葉が無かった。しめた、とばかりにエミールが微笑む。



「じゃあ、適任者は僕ですね!」

「くれぐれも、危ない真似はするなよ」



 アルベール様は、ため息をつかれた。



「父上には、事情をよく説明しておく……。それから」



 アルベール様は、エミールの頬をつまむと、ぎゅうぎゅうつねり上げた。痛いよう、とエミールがわめく。



「今後、モニクに余計なことを漏らそうものなら、お前は一ヶ月間、夕食のデザートのプディング無しだからな!」



(あれ……、今……?)



 アルベール様は、確かに私を、『モニク』と呼び捨てになさった。それが思いのほか嬉しくて、私は何だかほんわかした気分で、しつこく揉めている兄弟を見つめていたのだった。
< 65 / 228 >

この作品をシェア

pagetop