転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「バール男爵の葬儀の翌日、俺は彼の屋敷に、改めて弔問に出かけたのです。そこで使用人たちから、いろいろと話を聞いてきました」



 アルベール様が仰る。いつの間に、と私は目を見張った。エミールも、興味深そうに聞いていた。



「バール男爵は、辺境ティリナの出身で、元々はそこで調香師をしていました。そして、一旗揚げようとここ王都へやって来て、香水商として成功したのです。男爵には、その頃の調香師仲間であるピエールという友人がいました。ピエールは、頻繁に王都へやって来ては、男爵の屋敷へ入り浸っていたそうです。……ところが」



 アルベール様は、身を乗り出された。



「九年前から、ピエールはぴたりと姿を見せなくなったそうなのです。それは、バール男爵がその爵位を得た、ちょうど同じ年なのです」

「貴族の称号を得た友人に、近寄りづらくなったのかしら?」

「普通なら、そう考えますよね」



 アルベール様は、頷かれた。



「男爵本人も、使用人に言っていたそうです。ピエールは引退して、田舎でのんびりするそうだ、と……。でも、九年前といえば、バール男爵は三十九歳です。友人というのだから、ピエールだって同じくらいの年齢でしょう。引退するような年ではありませんよ」

「確かに、そうですわね」



 私は、想像を巡らせた。



「ピエールは、何か男爵の過去を握っていたのかもしれませんわね。今や貴族となったバール男爵からすれば、公になっては困る何かを……。それで、近付けたくなかった、とか?」

「俺も、その可能性が高いと思います」



 きっぱりと肯定された後、アルベール様はこんなことを言い出された。



「というわけで、俺はティリナに赴いて、直接ピエールに会ってこようと思います。タイミングが良いことに、父上には近々、ティリナご訪問のご予定があるのだとか。俺も随行しようと考えています」
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