転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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(何ですって……?)



 私は、耳を疑った。シモーヌ夫人の妹君は、ニコル嬢と仰って、現在二十五歳。私も人のことは言えないが、まだ未婚でいらっしゃるそうだ。というのも、評判が悪すぎるのである。姉同様男性関係と浪費癖が激しい彼女を、妻に迎えようという男性は、なかなか現れないのだそうだ。



(そんな彼女と、アルベール様が……?)



「二日前に、シモーヌ夫人のご実家を弔問に訪れたところ、アルベール殿をお見かけしたのです。ニコル嬢と、たいそう仲睦まじく語らっておられましたよ」

「彼も、弔問ではございませんの?」



 二日前といえば、アルベール様がバール男爵の弔問に訪れた日だ。きっと、同じ日にお二人分の弔問をなさったのだろう。とはいえ、なぜ夫人の弔問については私に黙っていたのだろう、という思いもかすめる。



「とても、そのような雰囲気ではなかったですがね。……それに」



 やや言いづらそうに、殿下は仰った。



「アルベール殿は、ニコル嬢にこう仰っていたのですが。『三日後の夜、また参ります。部屋の窓を開けておいていただけますか』と」



 すうっと、血の気が引く気がした。何かの間違いだ、そう思いたい。きっと、バール男爵の時同様、聞き込みをなさりたいだけだ。



 だが、それならなぜ、夜に女性の部屋を訪れるのか。そういえば私の時も、窓から忍んでらっしゃった。女っ気は無い、とエミールは言っていたが、その割には慣れてらっしゃる気がしなくも無い。



(もしかして、実際は遊んでらっしゃる……?)



「大丈夫ですか」



 力が抜けかけた私に、ドニ殿下が腕を差し出される。



「あなたがショックを受けられるだろうとは思ったのですが、アルベール殿に騙されているのであれば、みすみす見過ごすわけにはいかない……。モニク嬢、思い切って申し上げます。あなたに、正式に結婚を申し込みたいのです」

「ええ!?」



 私は、びっくりして彼の顔を見上げた。



「このタイミングで言うのは、卑怯だとわかっています」



 殿下は、バツの悪そうな顔をされた。



「でも、考えてみていただきたい。マルク兄上は、王太子というお立場上、一定以上の家柄の令嬢を娶らねばなりません。ですが僕には、そのような制約は無い。是非、あなたを妃に……」

「申し訳ありませんが、お気持ちにはお応えいたしかねます」



 差し出された腕をやんわりと拒絶しながら、私は殿下をじっと見すえた。
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