転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

3

「よく、モンタギュー侯爵が返してくださいましたわね!」



 嬉しいのと同時に、私は驚いた。



「これはモニク嬢のお母様の形見なのだ、と侯爵を説得したのですよ。それに、これを預かっていても、犯人が判明するわけでも無いでしょう、と」

「ありがとうございます。何と、お礼を申し上げたらよいか……」



 安堵で、力が抜けそうになる。亡きお母様がくださった、大切なブローチ。幼い頃から、ずっと私の傍にあった宝物……。



 歓喜に震える手で、私は差し出されたブローチを受け取ろうとした。だがドニ殿下は、そんな私の手首をぐいとつかんだ。そのまま、目にも留まらぬ速さで、私をご自分の胸に抱き込まれる。私は、思わず悲鳴を上げていた。



「何をなさるんです!」

「あなたに触れたくて、我慢ができなくて……」

「放してください!」



 使用人たちが引き上げた今、中庭は、私と殿下の二人きりだ。助けを求めようにも、人っ子一人いない。私は懸命にもがいたが、殿下に放してくださる気配は無かった。



「あなたのお母上は、良い趣味をしてらっしゃいますね。このグリーン、あなたの赤い髪に、とてもよく映える……」



 私を捕らえていない方の手で、殿下はブローチを、私の髪にかざした。彼の手が、私の髪を、一房すくい上げる。その瞬間、私は叫んでいた。



「その髪に触れていいのは、アルベール様だけですわ!」



 自分でも、とっさに飛び出た言葉だった。予想外だったのか、ドニ殿下の力が一瞬緩む。その隙を見逃さず、私は彼の腕から逃れ出た。



「モニク嬢……」



 殿下は、呆然と私をご覧になった。王子殿下に向かって言い過ぎたかしら、と私はやや不安になった。しかも殿下は、わざわざブローチを取り返してくださったというのに。それでも私は、アルベール様以外の方に、触れられたくはなかったのだ。



「……無礼な振る舞いをしたことは、お詫び申し上げましょう」



 お怒りになったかと思ったが、殿下は意外にも、淡々と仰った。そっと私の手を取り、ブローチを握らせてくださる。



「……ですが」



 殿下は、私をじろりとご覧になった。



「失礼ながら、アルベール殿にそこまで操を立てる必要があるとは思えませんが。シモーヌ夫人に妹君がおられるのは、ご存じですか? アルベール殿と彼女は、ただならぬ関係のようですよ」
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