転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

2

 その時だった。私は、応接間の外から、コレットがのぞいているのに気付いた。私と目が合うと、彼女は軽く目配せした。



「……ちょっと失礼しますわ」



 お父様とバルバラ様に断って、私は部屋の外に出た。



「どうかしたの?」

「これなのですけど」



 コレットは私に、粗末なハンケチと櫛を見せた。



「これは一体?」

「アンバーの遺留品ですわ」



 声を潜めて、コレットは囁いた。



「使用人部屋に、残されていたそうなのです。モンタギュー侯爵がいらっしゃる前に、回収しておきました。……というのは、これらは重要な手がかりになりそうなのです」

「まあ、そうなの?」



 一見、どこにでもありそうな小間物だが、と私は不思議に思った。コレットが、得意そうに微笑む。



「実は私、鼻が利くという特技があるのです。このハンケチ、よくよく嗅いでみると、男物の香水の香りがするのですわ。そこから、犯人を割り出そうと思って」



 そういえばモンタギュー侯爵も、香水について言及していたな、と私は思い出した。



「それは、助かるわ! どう、心当たりはありそう?」

「そうですね」



 コレットは、意味ありげに頷いた。



「最近、どこかで嗅いだような気がします……。まだ、誰とは特定できないのですけれど。その男性にもう一度会えば、きっとわかると思いますわ。頑張ってみますね」

「ありがとう、期待してるわ」



 力強くそう告げると、私は応接間へ戻ろうとした。だが、コレットは引き留めて来た。



「モニク様。もしかして、出かけたい所があるのではありませんか? 先ほどから、ずっと時計をご覧になって……。もしや、アルベールの所ですか?」



 ドキリとした。



「ああ、やっぱり」



 私の顔色を見て、コレットはにっこりした。彼女が想像しているような意味で、出かけたいわけではないのだけれどな、と私は思った。



「でしたら、遠慮無く行ってらっしゃいませ」

「ええ!? でも、ガストンの尋問に立ち会わないといけないわ」



 私はためらったが、コレットは妙に積極的だった。



「それなら、私が代わりに立ち会いますわ。言い訳なら、適当にしておきます。会いたいのなら、会われるべきですよ。それに、私も……」

「あなたも、何?」

「い、いいえ!」



 コレットは、慌てたようにかぶりを振った。



「とにかく、こちらのことならご心配無用ですから」

「……そう……?」



 少しの逡巡の後、私は決意した。



(ニコル嬢の屋敷へ行こう。本当にアルベール様が来られるか、見張るのよ……)
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