転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

5

 私が逡巡していると、アルベール様はさっさと御者にチップを渡した。



「彼女に、話があるんだ。中へ入らせてくれ。それから、しばらく外して欲しい」

「ごゆっくり!」



 とたんに上機嫌になった御者は、素早く扉を開け、アルベール様を中へ通した。御者が去ったのを見届けると、アルベール様は私の向かいに腰かけ、真剣に私を見つめた。



「何か、誤解されているのじゃないかと思って。こちらに来たのは……」

「シモーヌ夫人の妹君、ニコル嬢に会われるためでしょう? それも、二回目。人づてに聞きましてよ?」



 アルベール様のお顔には、一瞬動揺が走った。やはり本当だったのか、と私は確信した。



「……確かに、その通りです。ですが、目的は……」

「私に言い訳なさらなくても、よろしいじゃございませんの!」



 私は、思わず語気を強めていた。それ以上、聞きたくなかったのだ。



「アルベール様がどんな女性と付き合われようが、私には関係ございませんもの。そうでしょう? 私たちの関係は、偽装なのだから……」

「人の話を聞け!」



 アルベール様は、突如大声で怒鳴った。迫力に気圧され、私ははっと口をつぐんだ。



「俺がニコル嬢に近付いたのは、事件について探るためです。彼女は、こう語った。バール男爵とシモーヌ夫人は、一年前に別れている。だからパーティーの夜のあれは、逢い引きじゃない。二人はおそらく、それぞれ犯人に呼び出され、まとめて殺されたんだ!」

「別れていた?」



 思いも寄らない事実に、私は唖然とした。



「その通り。あれは、婚約者が逢い引きしていたことに怒ったあなたが二人を殺した、と見せかけるための、犯人の偽装に違いありません」



 確かに、あれが逢い引きでなかったとすれば、事件の見方はがらりと変わってくる。だが、それはそれとして、私にはまだアルベール様への不信があった。



「……わかりましたわ。でも、ニコル嬢に聞き込みしている事実を、なぜ私に黙っていたんです? それに、こんな夜に部屋を訪れる必要があるんですの?」

「それは……」



 アルベール様は、少し言葉に詰まられた。
< 79 / 228 >

この作品をシェア

pagetop