転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「嬉しい……」



 私は、思わず呟いていた。



「偽装の恋愛関係をあなたから提案された時は、正直戸惑いましたけれど。でも、恋人のふりを続けるうちに、本気で好きになっていきましたの……。けれどあなたは、私のことなど何とも思ってらっしゃらないと、思っていましたから」

「そうだったんですね」



 アルベール様は、はにかんだように笑われた。



「いえ、俺の方こそ、あなたはアリバイ作りのために恋人ごっこに付き合っているだけ、と思ってましたから。少しずつ、心を開いてくれている気はしていたけれど……。だから、さっきは焦りました。せっかくあなたが、俺を信用しつつあるのに、ニコル嬢との仲を誤解されたらどうしようかと」



 アルベール様は、ようやく私の体を放した。彼は、私を見つめると、もう一度「何も無いですからね」と仰った。



「今夜ここへ来たのも、情報目的です。二人が逢い引きでなかったとわかって、じゃあ犯人の目的は、男爵と夫人のどちらだったのだろう、と。それで、夫人を恨む人間について聞き込もうと、訪れたのです。一刻も早く、あなたの濡れ衣を晴らしたかったから。手段を選ぶ余裕がありませんでした」

「アルベール様……」



 私は、胸がいっぱいになった。彼の漆黒の瞳は、真剣な光をたたえている。そこからは、嘘偽りは感じられなかった。



「ありがとうございます。でも、安心なさって。もう私の嫌疑は、晴れつつあるのです」



 私は、昨日のモンタギュー侯爵とのやり取りを、事細かに伝えた。アルベール様が、安堵の表情を浮かべる。



「それは、よかった……」

「それに。形見のブローチも、無事返ってきたのです。ドニ殿下が持って来てくださったのですわ」



 するとアルベール様の表情は、一瞬曇った。



「ドニ殿下は、まだあなたの屋敷に出入りされているのですね」

「私はアルベール様を愛しているので、とお断りはしているのですが。なかなかしつこくていらっしゃって……」



 少しためらってから、私は続けた。



「実は殿下は、私に結婚を申し込まれたのです。私を妃に迎えたい、そう仰いました」



 アルベール様が、絶句される。私は、慌てて付け加えた。



「もちろん、お断りしましてよ? でも、彼は、私たちの婚約が保留状態なのを盾にとってらっしゃるのですわ。ですから、アルベール様……」



 正式に婚約を、と言いかけて、私はさすがに口をつぐんだ。前世ならともかく、女性からそんなことを申し出るなんて、はしたなさすぎる。



 アルベール様は、しばらく沈黙してらっしゃったが、やがてこう仰った。



「殿下のお申し込みを受けられるのも、一つの選択肢ですね」
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