転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 私は、愕然とした。



(どうして……? 私を好き、そう仰ったのに……?)



「保留状態なのは、事実だ。殿下がそう仰るのも、当然です。俺に止める権利は無い」

「アルベール様は、それでよろしいんですの!?」



 私は、思わず詰め寄っていた。アルベール様が、視線を逸らす。



「賛成したくはありません。でも俺は、あなたと結婚することはできないのです。でしたら、あなたを想ってくださる男性を選ばれた方が、あなたのためというものです。以前は憧れていた方なのだし……」



 バシン、と私はアルベール様の頬を張り飛ばしていた。



「ひどすぎますわ! 好きと仰って、口づけまでなさって、今さら……。アルベール様にとって、私はその程度の女でしたの? あちこちの女性に、そんな真似をなさっているんですの?」

「それは違います!」



 アルベール様が、激しくかぶりを振る。



「あなたのことは、心から愛しています。妻に迎えられたら、どんなにいいだろうと……。ですが俺は、あなたにはふさわしくない人間なのです。だから結婚はできないと、そう申し上げました」 



 アルベール様は、絞り出すような声で仰ったのだった。







 送ると言うアルベール様を振り切って、私は一人辻馬車で、サリアン邸へと帰宅した。



(一気に、天国から地獄へ落とされた気分だわ……)



 私は、陰鬱な思いで玄関をくぐった。『あなたにふさわしくない』といえば、前世では、ふる時の常套文句だった。だが、私を愛しているというアルベール様のお言葉は、嘘とは思えなかった。第一それなら、馬車を追いかけてまで弁明する必要は無い。



(それなら、一体なぜ……)



 廊下をとぼとぼと歩いていると、向こうからお父様が歩いて来られた。



「おお、モニク、帰ったか」



 お父様は、なぜかご機嫌な様子だった。



「ただ今、戻りました……。モンタギュー侯爵は、もう帰られましたの?」

「ああ。ちょうどよい、来なさい。お前に伝えておこう」



 お父様は、私を書斎へとお招きになった。応接セットに向かい合って腰かけると、お父様は、開口一番こう仰った。



「まず、アンバー殺しの夜のことだが。ガストンは、こう証言した。アルベール様は、サリアン邸には来ていない、と」

「何ですって!?」



 私は、顔色を変えた。



「アルベール様は、確かに私の部屋にいらっしゃいましたわ! 門番に金を渡して入れてもらったと、仰っていましたもの!」



 また私の嫌疑が復活するのか、と怯えたが、お父様は、そんな私をなだめるようにこう続けられた。



「案ずるな。ガストンは、他にもこう証言したのだ。中庭で見た人影だが、あれは男性だった、と。さらにモンタギュー侯爵によると、森番が追加証言をしたらしい。目撃した不審な男だが、黒髪の長身の男だった、と」
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