転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「ミレーの両親は、俺の母親については話してくれましたが、父親については固く口を閉ざしたのです。そうなると、余計気になる。俺は両親に隠れて、クイユ家に接近しました。クイユ家の人間は、俺が、よもやエレーヌ・ド・クイユの息子とは知りません。ミレー公爵家の長男ということで、愛想良く歓待してくれました。頻繁に、家に出入りさせるまでにね。……そして俺は、クイユ家の屋敷内から、この記録を見つけたのです」



 アルベール様は私に、ノートを見せた。



「ミレー家に迷惑をかけるまいと、母はこれを、クイユ家に残していったようです。俺を産んだ後に取り戻しに行くつもりが、病のため叶わなかったのでしょう……。これには、全てが綴られています……。オーギュスト・ド・バールが、いかに巧妙に祖父を陥れたかということ。そして、自殺を装って、祖父母を殺したこと……」



 私は、思わず額を押さえた。モーリスの話だけでも、十分過ぎる衝撃だったというのに。バール男爵の悪行は、それだけではなかったのか……。



「大丈夫ですか。もう、止めましょうか?」



 アルベール様は気遣わしげに仰ったが、私は「続けてください」と言った。



「オーギュストが祖父母を殺したのは、母を追い込む目的でした。金なら、もう十分むしり取った後ですからね……。自分と結婚するしかないと、諦めさせようとしたようです。しかし母は、決してオーギュストには屈しませんでした。プライドや意地はもちろんですが、どうやら母には、他に想う男性がいたようです」



 アルベール様は、私にノートを差し出された。



「ご覧になりますか?」

「ええ」



 アルベール様のお母様の手記は、美しく、そして力強い筆跡で綴られていた。彼女の意志の強さが、そこに表れているようだった。



『あの汚らわしい事実を、私はとうてい、あの方に打ち明けることができません。きっと、軽蔑されることでしょう。悩ましいことに、あの方もミレーご夫妻も、私のお腹に宿った子が、あの方のお子だと思っておられるようです。そうではないかもしれない、などと、どうして言えましょう……』



 おや、と私は思った。



「……アルベール様。あなたのお父上は、バール男爵とは限らないのでは? この手記に出てくる男性かもしれないではありませんか」
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