転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「理屈では、そうですね。でも、それならミレーの両親は、なぜ父親について語ってくれないのです?」



 確かに、その通りだ。私は、返事に困った。



「ミレーの両親は、案外父親がオーギュストだと感付いていたのかもしれませんよ。あるいは、この手記の男もろくでもない人間だった、とか。妊娠した母をミレー夫妻に預けて知らん顔、という時点で、その可能性も高いですよ」

「アルベール様、どうしてそう、悪い方向にお考えを……」

「まあ、ともかく」



 アルベール様は、私の言葉を遮ると、ノートを私の手から取り上げた。



「この手記には、母のオーギュストへの、強い恨みが綴られています。これを読んだ時から、俺はオーギュスト・ド・バールに復讐することを、ずっと考えてきました」



 背筋が、ぞくりとした。



「とはいえ、育ててくださったミレーの両親に、迷惑はかけられません。表向きは、実の両親のことなど関心が無いふりをしながら、俺はオーギュストに関する情報を集めてきました。公爵家の長男として、成すべき役割は果たしましたが、仕事以外の時間は全てそれに費やしました。他の青年貴族らのように、趣味や恋愛にかまけることも無く……」



 そういえば、と私は思い出した。最初にアルベール様から、偽装恋愛を提案された時。「意中の女性がいたりはしないのか」と尋ねた私に対して、彼はこう答えていたではないか。



 ――正直、恋愛に興味は無くてね。

 ――これまで、それどころではなかったから。



 あの時は、公爵家のご長男というお立場上、お忙しいのだろうと解釈したけれど。まさか、そんな理由だったなんて。私は、何だか胸が痛くなった。



「オーギュストがサリアン伯爵の令嬢と婚約した、と聞いて、俺の怒りは頂点に達しました。祖父母を、母を、クイユ家を破滅に追い込んで、自分は伯爵令嬢と結婚か、と。たとえ、オーギュストが実の父親だとしても、構うものかと思いました」



 アルベール様は、私を見つめてこう仰った。



「あなたの、婚約披露パーティー。俺は、オーギュスト・ド・バールを殺す目的で出席しました」
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