転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「信じていただけないかもしれないが、本当です」



 訴えるように、アルベール様が仰る。信じますわ、と私は頷いた。



「シモーヌ夫人が部屋へ入り、アルベール様が会場へ戻られた後、何者かが二人を殺害したのでしょう。そして恐らく、私はその現場を目撃して失神した……」

「さらに、二人は逢い引きではなかったと、判明しましたからね。犯人が、それぞれ二人を呼び出したのでしょう……」



 アルベール様は、深いため息をついた。



「あの時は、いろいろな感情が錯綜したものです。十年以上憎み続け、殺害を目論んでいた相手が、他の誰かに殺されてしまったなんて。正直、犯人には怒りを感じましたね」

「どうしてです?」



 私は、きょとんとした。



「よくも、仇討ちの機会を奪ってくれたな、と。そして、標的がオーギュストだったとしたら、関係無いシモーヌ夫人まで巻き込むなんて、と。……どうかしていたんでしょうね、あの時の俺は。犯人を、からかってやりたくなったんです」

「ええ!?」



 アルベール様のお考えが、よくわからない。眉をひそめると、アルベール様はもう一度繰り返した。



「ですから、どうかしていたんですって。恐らく、あなたは犯人ではないだろうと踏んでいました。他にいるであろう真犯人に、揺さぶりをかけたくなったんです。だから現場を物盗りの犯行のように見せかけ、捜査を攪乱させた。あなたには、偽のアリバイを作って差し上げた。真犯人は、恐らく困惑し焦ったはずです」

「じゃあ……。あれは、嘘でしたの? 私を助ける際に、仰ったではないですか。男爵がお嫌いだから、犯人が捕まって処刑されたら、むしろそちらに同情するだろう、と」

「それも、あながち嘘ではありませんよ」



 アルベール様は、けろりと仰った。



「そういう思いもありました……。こんなクズのために、気の毒に、と。それくらい、あの時の俺は、説明しきれない複雑な思いでいっぱいだったのです」

「……」



 しばらく、沈黙が流れる。やがてアルベール様は、私を見てこう言い出された。



「もう、終わりにしませんか。あなたの嫌疑は、もう晴れた。これ以上俺と付き合っていても、何も良いことはありませんよ」
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