【お天気】スキルを馬鹿にされ、追放された公爵令嬢。不毛の砂漠に雨を降らし、美少女メイドと共に甘いスローライフ~干ばつだから助けてくれって言われてももう遅い~

38. 猛牛ゴーレム

 オディールはジャラジャラと綺麗な小石をマジックバッグから出し、テーブルに広げた。

「さて、コアとなる石はどれがいい?」

 ゴーレムは輝石を核にしてボディを作り上げる。石の色や硬さはそのままボディに反映させるので石選びは重要だった。

「うーん、この色が上品で綺麗かも? これにするわ!」

 ミラーナは淡いクリーム色の石を取り上げる。それは瑪瑙(めのう)のように半透明でしっとりと上質な美しさを放っていた。

「あぁ、素敵だね。卵型に合いそうだ」

「ふふっ、いい子に創らないとね」

 ミラーナは微笑みながら、輝石を丁寧になでる。その指先には愛情が溢れていた。


         ◇


 ミラーナは土魔法をつかって140cmくらいの卵のボディを創り出す。淡いクリーム色の半透明のボディは窓からの日差しを浴びて、しっとりと艶やかに輝いた。

「おぉ! まるで宝石みたいだね!」

 ボディへと頬を寄せ、その表面を優しくなでるオディールの瞳は好奇心でキラキラしている。

「思ったより……、綺麗にできたわ」

 はぁはぁと肩で息をしながらミラーナは優しくボディをなでた。

 続いて手を生やす。素材は白い粘土で、下側の腕は足にもなるので太く丈夫にした。

 最後に大きな車輪を作り、卵のボディに埋めこんでいく。

 これで身体の出来上がり。後は魂を込めるだけである。

 ミラーナは卵のボディに手を当てて、目をつぶり、イメージを固めていく。

 石の塊が一つの生き物としてある種の命を帯びてゴーレムとして生を受ける。それはある意味神の領域に近い創造の力だった。土魔法使いでもそんなことができる人はごく一部だろう。そんな神に近い神聖な儀式がいよいよ始まる。

 室内には静かな緊張が走り、オディールはゴクリと唾をのんだ。

 ミラーナは首をグルグルと回し、一旦緊張をほぐすと両手をボディに添える。

「じゃあ、いくわよ……」

 ブツブツと呪文を詠唱し、徐々にミラーナの身体が黄金色の光を帯びていく。それに合わせてオディールは魔力を注入していった。

 直後、卵のボディが黄金色の光を放ち、ぶわっと輝く微粒子が全身から立ち上っていく。

 光はどんどんと輝きを増し、最後に激しい閃光と共にズン! という爆発音を放った。

 キャァ! うわぁ!

 思わずしりもちをついて転がる二人。その予想外の激しい反応に何が起こったかさっぱり分からず二人は混乱してしまう。

「何だこりゃ! いてて……。大丈夫?」

 もうもうと上がる煙の中をオディールはミラーナの手を取ってそっと引き起こす。

 ミラーナはせき込みながら静かにうなずいた。

 窓とドアを開け、煙を追い出していくが、ゴーレムはピクリともせず床にそのまま転がっている。

「……。失敗……、かな?」

 オディールは、渋い顔でミラーナを見る。ミラーナは理由が分からず眉をひそめ、首をかしげていた。

「ハムちゃんと同じ手順なのよ? なんで爆発したのかしら……?」

 その時だった。

 キュィィィーーン……。

 不気味な高周波音が部屋に響き渡ると、ゴーレムの丸い目がいきなり黄金色に閃光を放ち、輝いた。

 あれ……? へ……?

 直後、車輪がキュルキュルキュルと高速回転したかと思うと、ガバっと起き上がるゴーレム。

 キュイッ、キュイッ!

 黄金色の目を明滅させながら何かを語りかけてくるゴーレムだったが、刹那、急発進して二人の方に突っ込んできた。

「うわぁ!」「きゃぁぁぁ!!」

 慌てて逃げる二人をかすめ、ゴーレムはそのまま棚に突っ込んだ。載っていたものを吹き飛ばし、自分もゴロゴロと転がっていく。

 キュイッ、キュイーーーーッ!

 ゴーレムは再度車輪を高速回転させガバっと起き上がると、また二人に向けて突っ込んでくる。

「止めて止めて!」「ダメ! 止まらないわ!」

 二人は部屋から逃げ出し、慌ててドアを閉めた。

 ズーン!

 ゴーレムはドア脇の壁に激突し、激しい衝撃音が響き渡る。

 あわわ……。

 細かいチリが天井の方からパラパラと降ってくる中、二人は青ざめた顔を見合わせ、とんでもない事になってしまったことに途方に暮れた。

「た、大変なことになっちゃった……」「なんでいうこと聞かないのかしら……」

 しばらく部屋の中ではゴーレムが家具を壊し、椅子を吹き飛ばし、ものすごい音をたてながら大暴れしつづける。

「おいおい、何やっとるんじゃ?」

 騒動に気づいたレヴィアがバタバタと走ってやってくる。

「ゴーレムが言うこと聞かないんだよぉ」

 オディールは口をとがらせ、部屋の窓を指さした。

 レヴィアは窓から暴れるゴーレムを覗く。

「ふむ、こりゃ酷いな……。あ奴の名前は?」

「名前……? これからつけようと思ってたから、まだ……」

 ミラーナは泣きそうな顔で答える。

「名前がないと暴れる奴がいると聞いたことがあるぞ」

「な、名前……」

 口をキュッと結んだミラーナは、眉をひそめてしばらく何かを考える。

「私、行ってくる!」

 ミラーナは大きく息をつくとドアを開け、部屋に入っていった。

「あっ! 危ないよミラーナ!」

 慌てて追いかけるオディール。

 ゴーレムは二人を見つけると、まるで怒り狂った牛のように猛然と突っ込んでくる。キュルキュルと車輪が高速回転する音が部屋中に響き渡った。

 ミラーナは高速に明滅する黄金色の眼を見据えると、両手をゴーレムの方へ向け呪文を唱える。

「危ない! 避けるんじゃ!」

 レヴィアの叫び声が響いたが、ミラーナはゴーレムをまっすぐに見すえたまま、最後まで詠唱しきった。
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