人肉病
「逃げる?」

「私、人を食べたんだよ? 嫌でしょう?」


聞くと圭太が驚いたように目を丸くして私を見つめた。
そして、キツク抱きしめてくる。
息が詰まるほど強い力で抱きしめられて私は困惑する。


「嫌なもんか」

「え?」


自分の耳を疑った。
どれだけ相手のことを好きでも、人肉を食べる恋人なんて嫌に決まってる。
けれど圭太は嫌じゃないと言った。


「感染者は異常なくらいの食欲があるんだ。そのことは他の感染者を見てわかってた。それでも薫は今までずっと我慢してたんじゃないか。俺のためでもあったんだろう?」


そう質問されても胸がいっぱいで返事ができなかった。
そこまで私のことを考えてくれているなんて、思ってもいなかったから。


「本当にありがとう。でも俺は大丈夫だから、薫にはちゃんと食事をしてほしい」


その優しさに涙が止まらなくなってしまう。
次から次へと溢れ出す涙を手の甲で拭って、泣き笑いの顔を浮かべた。


「ありがとう圭太」


圭太の首に両手を回して自分から抱きつく。
ずっとずっとこうしていたい。
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