その首輪はお断りします!【マンガシナリオ】
第1話 ご主人様はお義兄ちゃん?
○綾人の部屋。男子高校生にしてはシンプルな空間

 ベッドに腰掛けている夏目綾人(あやと)は、正面で床に正座をしている翼を見下ろしている。
 さらりと綾人の長めの前髪が揺れた。
 目を細め口元には不適な笑みが浮かべられていて、綾人の色気は計り知れない。
 そんな顔を正面からばっちりと見ている翼は、だらだらと冷や汗がでている。

翼(大魔王とはこういう人を言うのかもしれない──)


○一軒家が立ち並ぶ閑静な住宅街 (時間は遡り、昼すぎ)

翼(四月上旬)
(高校の入学式を明日に控えた今日は、春休み最終日)
(ここまで女手一つで育ててくれたお母さんが再婚して、私達は新しくお父さんになる人の一軒家に住むことになった)
(──んだけど、絶賛迷子中)

 暗い茶色のボブヘアーの翼と、母の香織がとある一軒家の前で立ち止まっている。翼は大きなリュック、香織は紙袋を持っていた。
香織:胸元くらいの髪を緩く結び、右前に流している。

翼「お母さん、本当に道こっちで合ってたの?」
香織「おかしいわねぇ、ここのはずなんだけど……」

 目の前の家の表札を見る香織。
 表札には「牧原」と書いてある。翼は呆れつつも、地図が表示されている香織のスマホを「見せて」という。
 スマホの地図と、にらめっこする二人の後ろから声がした。

賢吾「香織さん、翼ちゃん! こっちだよ!」
 
 「牧原」さん家の向かい、表札には「夏目」と書かれているその家から、夏目賢吾(けんご)が出てきた。
 賢吾:優しそうな40代の男性。

香織「あらやだ! 私ったら、間違えちゃってたわ」
賢吾「いや、僕が外で待っておけばよかったんだよ」

 にこやかな二人を見つめる翼。

翼(この優しそうな人が夏目賢吾さん。──私のお父さんになる人だ)

賢吾「元気にしてたかい? 翼ちゃん」
翼「はい」
賢吾「前会った時よりも、大人っぽくなった気がするよ」
翼「ふふっ、そうですか?」

翼(賢吾さんとは、お母さんと籍を入れる前に一度会ったことがある)
(その時の印象はすごく優しい人で、シングルマザーのお母さんを幸せにしてくれるって思えた) 

綾人「──父さん、二人が来たの?」
 
 ガチャと玄関が開き、声がした。
 出てきた人物を見て目を見開く翼。
 艶のある黒髪、長めの前髪から覗く二重の瞳。鼻筋を辿れば形のいい唇をしているのは夏目綾人。

賢吾「あぁ。綾人、二人に挨拶しなさい」
綾人「こんにちは。香織さん、翼ちゃん」

 綾人は翼へと視線を向ける。翼の頬が、ぽっと赤くなった。

綾人「こんなに可愛い妹ができるなんて俺、嬉しいな。今日からよろしくね」
翼「妹……」

 バッ! と香織を見た翼。その顔は焦っている。

翼「ちょ、お母さんっ!? 賢吾さんに私と同い年くらいの、息子さんがいるなんて聞いてなかったよ!?」
 
 むふふと口元に手を添えて笑い、バチコーンとウィンクをした香織。

香織「サプライズよ、翼」
翼「サプライズってそんな……!」
香織「あなた、ずっと兄弟が欲しいって言ってたじゃない」
翼「そうだけどさぁ!」

 続けて、賢吾が申し訳なさそうに言う。

賢吾「翼ちゃん、ごめんね。香織さんに止められてて。……僕の息子の綾人。翼ちゃんとは同い年だよ」
翼(この人が、私のお兄ちゃん……)

 翼は綾人を見る。
 目が合い「ん?」と微笑まれ、またしても顔が赤くなり、サッと目を逸らす翼。

翼「(同い年だからかな? お兄ちゃんって感じはしない……)」
綾人「父さん、あがってもらったら? 詳しい話は中でしよう」
賢吾「そうだね。さ、あがってあがって〜」

 手で扉を支えて、三人が入れるようにしている綾人。

翼「……お、お邪魔します」
賢吾「翼ちゃん、ここは今日から君の家でもあるんだよ。だから『ただいま』だ」
翼「! ……ただいま」

 少し照れながら言うと、うれしそうにする賢吾と香織。
 綾人の前を通り過ぎる時、微笑まれた。

翼(!)

 ぺこり、とお辞儀しておく翼。
< 1 / 27 >

この作品をシェア

pagetop