S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 育郎はいつもそんなふうに言う。一度、登美子が冗談めかして『和葉ちゃんと安吾くんが結婚して芙蓉を継いでくれたら、育郎さんもお客さまも大喜びなのに』と言ったことがあったが、育郎は真面目な顔で否定していた。

『和葉も安吾も、好いた相手と一緒になれ』

(登美子さんの言うことは、たしかにそのとおりだけど……安吾くんとはすっかり兄妹って感じで天地がひっくり返っても恋愛関係になることはないだろうしなぁ)

 安吾のことは大好きだが、異性として意識したことはなかった。向こうも同じだろう。

「ところで……今日来た、円城寺の坊ちゃん。なにか話したか?」

 育郎の口から、ふいにあの男の話が出て和葉は目を丸くした。常連の沙月の話題ならともかく、なぜ彼のことを聞くのだろう。

(もしかして、私の無礼な態度をおじいちゃんにチクられたとか?)

 和葉は視線を泳がせつつ、素知らぬ顔で答える。

「と、とくになにも。どうしてそんなこと聞くの?」
「別に。なんとなくだ」

 育郎もなにか隠したいことでもあるのだろうか、和葉と目を合わさない。

「あっ、それよりさっき、また銀行から電話があったでしょう? なんだって?」

 柾樹の話などしたくもない、と和葉は話題を変えた。

「あぁ。飽きもせずに同じ話だ。あいつら、電話の前でカセットテープでも流してんじゃねぇか?」
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