S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 柾樹には玄関で待っていてもらうことにして、和葉はお手洗いを済ませた。迷子にならずに玄関の付近まで戻ってこられてホッとしたところに、柾樹の声が飛び込んできた。

 誰かとスマホで通話をしているようだった。彼らしくない冷酷な表情と声に和葉は思わず太い柱の陰に身を隠してしまった。

「以前にも説明しましたよね。久野のご令嬢とは結婚できない理由があるんですよ。そもそも、結婚相手なんか誰もいいでしょう? 既婚であるという事実さえあれば!」

 電話の相手が誰かはわからないが、自分との結婚について話しているらしいことは理解できた。

『結婚相手なんか誰でもいい』

 別に初耳でもなんでもない。柾樹は最初からそう言っていた。和葉は騙されたわけじゃない。

 それなのに……鉛をのみ込んだかのように心がズンと重くなった。

(私と楽しそうに過ごしてくれたのは、あの時間は……私をいい気分にさせてすんなり結婚するためだったの? それ以上の意味はなかった?)

〝当たり前だろう〟

 どこからか、柾樹の冷めきった声が聞こえてくる気がした。

 彼を責める資格も傷つく権利もない。だからこそ、やり場のない思いが宙ぶらりんになって和葉を苦しめた。

(別に、傷ついたりしない。私はおじいちゃんと芙蓉のために彼と結婚する。それだけよ。円城寺さんを愛することなんて――絶対にない)
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