S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 自分自身になかば強引に言い聞かせて、柾樹のもとに戻った。

「円城寺さん」
「おかえり。迷子にならずよかった――」

 彼の言葉を遮って、和葉は告げる。

「私はすぐにでもあなたのマンションに引っ越せるので、ご都合のいい日を教えてください」

 射抜くような眼差しを向ける和葉に、柾樹は幾分か驚いたようだ。

「どうした? 急に積極的だな」
「はい、私も覚悟を決めました。この契約結婚の役目をしっかり果たそうと思います。だから、円城寺さんも芙蓉とおじいちゃんをよろしくお願いいたします」

 彼に既婚のカードを与える、都合のいい妻になるだけで芙蓉も育郎も助かるのだ。不満など……あるはずもなかった。

 それから一週間後。季節はもう八月、夏真っ盛りだ。

 蝉しぐれのなか、和葉は育郎を見舞うため円城寺メディカルセンターを訪れた。

「おじいちゃん。具合はどう?」
「おぉ、和葉か。まぁまぁだな。最初はこんな小洒落た部屋は落ち着かねぇと思ったが、慣れればベッドってやつも悪くないな」

 育郎は上半身を起こし、枕をポンと叩きながらそんなふうに言った。
 たしかにここは、病院というよりはホテルのように洗練されている。入院期間が予定より長くなってしまったから、育郎が気に入ったのならなによりだ。

「それに、ここは飯がうまい! お浸しってやつは単純そうに見えて、塩梅が難しいんだが実に絶妙な味でな――」
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