春色ドロップス
 それからどれくらい時間が経ったんだろう? 「ただいまーーーーー!」っていう郁子の声が聞こえた。
ドタドタト食堂に走り込んでくる。 そしておやつに買ってあったどら焼きを頬張る。
「美味しいねえ。 これ。」 「ふーん、そう。 トラが饅頭食ってるみたいな顔してるけど、、、。」
「兄ちゃん 訳の分かんないことを言わないの。」 「へえ、お前でも分からないことが有るんだな。」
「失礼ねえ。 兄ちゃんより頭いいから。」 「形だけだろう?」
「ひどーーーーいひどーーーーい。」 郁子はどら焼きを頬張りながら唸っているのでありまして、、、それを見ながらぼくは腹を抱えて笑ってます。
 「ひど過ぎるわよ。 お兄ちゃん。」 「お前だって言いたい放題言ってるじゃん。」
「私はいいの。 妹なんだから。」 「へえへえ、そうですねえ。 郁子様。」
「変な言い方。」 「どうでもいいけどお前、スカート汚れてるぞ。」
「何が? ワーーーーー、嫌だあ!」 またまた郁子の大騒ぎが始まった。
 ぼくは部屋に戻ってスマホを開いてみた。 メールが二つ。
一つは勉からのやつ、もう一つは彩葉からのやつだ。
 ささっと読み下して返信するとぼくは床に転がった。 まだまだ4月なんだよね。

 卒業式の日、彩葉はどっか寂しそうにしていた。 通信制を選んだ後だったからかな?
「健太君 また遊びに来てね。」 そう言って寂しそうに手を振った。
 ぼくもつかさもいつも通りに「元気でね!」とは言ったんだけど、やっぱりどっか寂しかった。
そのままに最後の春休みを過ごしてこうして高校生になった。 つかさたちとは同じクラスになったけどやっぱりどっか寂しいんだよな。
 入学式の日も居ない彩葉を探してしまった。 あれだけ明るく振舞っているつかさだってどっか寂しそうだった。
そんな中で授業が始まってぼくらもやっと落ち着いてきたらしい。 これからなんだよね?
馬宮たちは相変わらずドタバタやってるけどさ、、、。
 夜になって母さんも父さんも帰ってきた。 「さあさあ夕食を作るよ。」
郁子はというとスカートの汚れが気になるらしくて落ち着いていられないらしい。 「どうしたの?」
「スカート汚しちゃって、、、。」 「まあまあ選択するから脱ぎなさい。」
「着替えは?」 「箪笥からズボンでも出せばいいっしょ。」
 スカートを見た母さんは吹き出した。 「なあんだ、泥か。」
「なあんだは無いでしょう?」 「あんたもおっちょこちょいなのねえ?」
「お母さんの子供だから。」 「あらあら、私はそんなおっちょこちょいじゃないわよ。」
「じゃあ私は誰の子供なの?」 訳の分からん突っ込み合いが始まったようだ。
 部屋に戻ってスマホを開いてみると折原さんからのメールが来ていた。

 『今度の食事会、楽しみだなあ。 彩葉さんとも会えるんだよね?』

 あの時の印象とはまるで違う折原さんがそこに居た。 あれは何だったんだろう?
「私ね、あなたたちとは違うのよ。」って言いたそうな顔だった。 初対面だったからかなあ?
 それからしばらくは話せないなって思ってたのに、、、。 見掛けに寄らないもんだなあ。
 「夕食出来たわよーーーーー。」 母さんの大きな声が聞こえた。
のそのそと下りていくと郁子はもう食べ始めていて「兄ちゃん また寝て他の?」って聞いてきた。 「お前じゃないんだからいつもいつも寝てないよ。」
「ひどいなあ。 私は熊じゃないのよ。」 「じゃあ何だよ?」
「うーーん、パンダ。」 「ブ、それだって熊じゃないか。」
「違うもん。 パンダはパンダだもん。 ねえお母さん。」 「郁子、パンダだって熊の仲間だよ。」
「えーーーーーー? 嘘だあ!」 「嘘じゃないってば。」
「何で熊なの?」 「それはパンダに聞きなさい。」
 またまたしょうもない突っ込み合いが始まったようだ。 「兄ちゃん 助けてよ。」
「パンダが好きな食べ物は何だ?」 「うーーーんと、笹だったかなあ?」
「ブーーーーーでした。」 「じゃあ何よ?」
「パンだ。」 「何それ?」
「パンダの好きな食べ物はパンだ。」 「しょうもな、、、。」
お父さんはビールを飲みながら苦しそうに笑った。
 ぼくはというと夕食を必死に掻き込んで、、、。 「何慌ててるんだ?」
「何でもないよ。」 「彼女でも出来たのか?」
「彼女なんて居ないよ。」 「あれあれ? 彩葉ちゃんとは仲良しだったよなあ?」
「あなた、そこに突っ込んじゃダメよ。 健太だってこれからが青春なんだから。」 「そうかそうか。 わりいわりい。」
 母さんに助けられてぼくは部屋に戻った。 (返信しないとな、、、。)

 『彩葉はおとなしい子だよ。 ぼくはずっと見てきた。
アレルギーさえ無かったら水泳でも何でも思い切ってやれたのにっていつも言ってたんだよ。 気にするなとはいつも言ってきたんだけどさ、、、。』

 あの葬式事件さえ起きなかったらもっとみんなと仲良くやってたかもしれない。 でも馬宮たちの虐めが続いた後にあれでは、、、。
一時期、「私死にたい。」って言ってたんだよな。 気持ちは分かるよ。
 ぼくもつかさも毎日のように家に行って話を聞いてあげてたんだ。 勉だって心配してた。
馬宮たちを見るたびに「お前らが虐めたからこうなったんだぞ。」ってお説教してたっけな。
 でもそのままぼくらは高校生になってしまった。 どうしたらいいんだろうね?
ぼくの心の中には今でも彩葉が居る。 あの日と同じように元気に喋っている彩葉が、、、。

 『彩葉さんって虐められてきたの? 可哀そうなことをしたな。
今は大丈夫なの? 私も傍に居ていいの?』

 折原さんも相当に心配してるようだ。 明日、きちんと話さなきゃね。
そんなことを考えながら布団に潜り込むとそのまま寝てしまったんだ。 どんな夢を見たかも覚えてない。
 翌日、学校に行くと折原さんが飛び付いてきた。 「ねえねえ健太君 彩葉ちゃんってどんな人なの?」
馬宮たちがいつものように大騒ぎをしている中でぼくは彩葉のことを話すんだ。 「へえ、そうなんだ。 可愛い子だね。」
「ぼくは小学生の頃から彩葉を見てたから。」 「私のことも忘れちゃ嫌ーーーーーーよ。」
そこへつかさが割り込んできた。 「そうそう、つかさも勉もずっと仲良しなんだよ。」
 それからは4人でああでもないこうでもないって彩葉のことを話し合ったんだ。 つかさは特に彩葉のことをいつも心配していた。
太陽アレルギーがはっきりしてからはなおさらだったよな。 プールの時間もつかさはいつも彩葉の傍に居た。
 馬宮たちが悪さを仕掛けてくるとつかさと勉が追い掛けて締め上げたっけ。 でもなかなかやめないんだよなあ あいつら。
高校生になってから少しは変わるかと思ったら何も変わってないし、、、。 これからどうするんだろうなあ?
このまま卒業して社会人になっちゃうのかなあ? なんかとんでもない大人が増えそうで怖いな。
 今だって居るじゃん。 何もうまくいかないからって人を殺すやつ。
あんなやつにはなりたくないなあ。 せめてまともな大人に、、、。
 休み時間になるとぼくらはまたまた折原さんを囲んで話し込む。 やっと折原さんもこのクラスに馴染んでくれたみたいだね。
彩葉が居ればもっと良かったのになあ。 「健太、それは言わないの。」
「分かってる。 でも、、、。」 「お前が寂しがってるのは分かるんだ。 でも俺たちだって寂しいんだぞ。」
「そうだよね。 馬宮君たちは別にしてね。」 「何か言った?」
つかさがわざと聞こえるように言うもんだから馬宮が振り向いた。 「お前は関係無いよ。 タコ。」
「どうもすいませんねえ タコで。」 「タコが喋るのか?」
またまた大騒ぎが始まったみたい。 ほんとにうざい連中だなあ。





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