春色ドロップス
夕食を食べていると疲れた顔でお父さんが帰ってきました。 「ただいま。」
実は設計事務所で働いているお父さん、、、。 毎日数字と睨めっこしながら溜息ばかり吐いてます。
「隣町で再開発の仕事をやっていて、、、。 斬新なデザインで使い心地も良くて、耐震性もしっかりしているビルを作れって言われてるんだ。
とは言うけどさあ、どうすりゃいいんだい?」
そんなことをぼくらにこぼされたってどうしようもないよ。 でもなんか難しそうだなあ。
今夜も図面と睨めっこしながら日本酒を飲んでいるお父さんなんだけど、気付いたら寝ちゃってるんだよね。 起こさないように毛布を掛けてあげます。
そんなお父さんなんですが、土曜日だけは仕事のことも忘れてぼくらと遊んでくれてます。
ぼくらと一緒に釣り堀へ魚釣りに行ったり、妹とゲームをしていたり、、、。
そうそう、押し入れの中にはお父さんたちが遊んでいたっていうオセロゲームとかダイヤモンドゲームとかドライブゲームなんかが埃をかぶったままで眠っています。
「お前、彩葉ちゃんとは会ってるのか?」 時々、思い出したように聞かれるからドキッとしますねえ。
「彩葉? 有って無いなあ。」 「お前、親友だったんだろう? たまには会ってこい。」
普段は優しいお父さんですが、不意に厳しい顔で言ってくるんですよ。 怖い怖い。
望月彩葉、あの子は小学校からの友達でいつも遊んでたんだ。
でもね、彼女は体が弱かった。 太陽アレルギーとか言ってたっけな。
だから水泳も長袖とズボンを履いてプールの片隅でチャポチャポやってるくらいだった。
そんな彩葉を見て男の子たちはいつも笑っていた。 それを見付けるとつかさが激怒するんだ。
「あんたらねえ、ちっとは彩葉のことを考えなさいよ。 わざとああしてるわけじゃないんだから。」
「おーおー、つかさ姫が怒ったぞー。 逃げろ!」 「待て! こらー!」
いつもいつもそうやって彩葉は虐められていたんだ。 そんな彩葉の隣にはぼくが居た。
「ごめんね。 あんなやつらばっかりで。」 「いいの。 私は慣れてるから。」
そう言っても彩葉は隠れて泣いていた。
「たまの土曜日くらい遊びに行ってきなさい。 彩葉ちゃんだってあんたが来るのを待ってるんじゃないのかい?」 お母さんまでそう言ってくる。
ぼくは緊張しながら家を出て彩葉の家に向かうのだった。
彩葉の家は小さな雑貨屋さん。 ノートとか鉛筆とかいつも買わせてもらってたんだ。
でもね、ぼくは仲良しだからって彩葉の部屋にも上がらせてもらってた。
ここしばらくは入試も有ったから遊ぶことも無くなって行かなくなってたなあ。
店は今でもなかなかに繁盛してるらしい。 お客さんがいっぱい居る。
店の前を過ぎて裏に回る。 チャイムを押すと、、、。
「はーーーーーーい。」というおばちゃんの元気な声が聞こえた。 「あらあら、来てくれたの?」
「彩葉は?」 「今ね、通信制に通い始めたから大変みたいよ。 まあ、上がって。」
おばちゃんはぼくを招くと彩葉に聞こえるように大きな声で、、、。 「彩葉、灰原君が来てくれたわよーーーーーー!」って。
少しして「はーーーい。」って元気な声が聞こえた。 彩葉の部屋は二階なのである。
階段を上がると彩葉が部屋のドアを開けて待っていた。 「健太君、、、。」
「元気そうだなあ。」 「取り合えずね。」
机の上には貰ってきたばかりの教科書が山と積まれている。 使っているのがぼくらと同じらしくてホッとした。
「でもさあ、通信制って自分で勉強しなきゃダメなのよ。」 「教えてくれないの?」
「週に一度、学校に行ってまとめて教えてもらうんだ。 でもやれるかなあ?」 「ぼくらも手伝うよ。」
「ありがとうだけど、大変じゃないの?」 「つかさたちにも聞いてみるよ。」
「いいけどさあ、あの子はうるさいから、、、。」 彩葉はベッドに座った。
ぼくらが高校を選んで入試に備えていた頃、彩葉はなんとなく沈んで見えたんだ。 何か有りそうだったけど、ぼくは敢えて聞かなかった。
その頃には通信制を選ぶことを決めてたんだね。 体のことを考えるとそのほうが良かったかもしれない。
だって、これまで彩葉は虐められっぱなしだったからね。
掃除している時に雑巾を投げ付けられたりするのは可愛いほうだった。
わざと牛乳をこぼされたり、弁当を食べてる最中にぶつかってみたり、、、。
そのたびに、それを見付けたつかさがブチ切れて馬宮たちをお説教するんだ。
でもさあ、一度や二度のお説教では効かない連中だったよな。
「馬宮君とか一緒なの?」 彩葉が心配そうに聞いてきた。
「一緒だよ。 うるさくてしょうがない。」 「じゃあ、つかさちゃんは?」
「つかさも一緒だよ。 新しい子も入ったけどね。」 「どんな子?」
「そうだなあ、眼鏡女子。」 「ふーん、、、。」
そう、折原さんのことはまだこれくらいしか分かってないんだ。 近寄れなくてさ。
あの不思議なオーラは何なんだろう? 「私はあなたたちと違うのよ。」
そう言っているようなあの目、、、。 じっと前を見ているあの姿勢、、、。
[クラス1勉強してます。]って言いたいようなあの顔、、、。
そして腰まで伸ばした長い髪、、、。 入学式の時に感じたあの胸騒ぎ、、、。
どれを取って見ても、これまでのクラスメートには無かった物ばかりだ。
「何て名前の子なの?」 「折原、、、優希さんだったかな、、、。」
ぼくもうろ覚えでそれが正しいかどうかは分からない。 「折原、、、さんか。」
彩葉は注いで置いた紅茶を飲みながら溜息を吐いた。
チラリホラリと話しながらいつの間にか2時間が過ぎていたことに気付いたぼくは慌てて席を立った。
「ゆっくりしていけばいいのに。」 「うん。 でもさ、彩葉が疲れちゃうといけないから。」
「そう? 私はいいけど、、、。」 「また遊びに来るよ。 土曜日は暇だから。」
「ありがとう。 待ってるね。」 部屋を出てきた彩葉は寂しそうな顔をした。
鼻歌を歌いながら思い出したようにコンビニに入っていく。 「確か、彩葉は抹茶のアイス 好きだったよなあ。」
ケースを見回しながらお目当てのアイスを二つ手に取る。 レジへ行くと、、、。
「おー、健太じゃないか。 彼女にプレゼントか?」 三つ上の先輩 吉岡裕也である。
「いやあ、妹に買っていくんです。」 「あれ? 妹はアイスよりプリンじゃなかったっけ?」
「ぎく、、、。」 「まあいい。 大事にしろよ。」
先輩は分かったような振りをしてぼくを送り出してくれた。
吉岡先輩は彩葉を虐めてるやつらを見付けると学校中を走り回って捕まえてくれていた。 「田中、手伝え?」
同級の田中守にも声を掛けて挟み撃ちにするんだ。 彩葉は吉岡先輩にも可愛がられてたんだな。
抹茶アイスを袋に入れると来た道を戻って彩葉のおばちゃんにそれを渡した。 「これ、彩葉にあげてください。」
「まあまあ、二人で食べればいいでしょうに。」 「用事が有って早く帰らなきゃいけなくて、、、。」
「分かった。 渡しとくね。 ありがとう。」
家に戻ってきてアイスを食べているとスマホが鳴った。 見るとメールが来ている。
「抹茶アイス、ありがとう。 美味しかったよ。」 彩葉からの簡単なメールだ。
「一緒に食べたかったよ。 次はそうするね。」 返事を返したぼくは部屋の窓を開けた。
実は設計事務所で働いているお父さん、、、。 毎日数字と睨めっこしながら溜息ばかり吐いてます。
「隣町で再開発の仕事をやっていて、、、。 斬新なデザインで使い心地も良くて、耐震性もしっかりしているビルを作れって言われてるんだ。
とは言うけどさあ、どうすりゃいいんだい?」
そんなことをぼくらにこぼされたってどうしようもないよ。 でもなんか難しそうだなあ。
今夜も図面と睨めっこしながら日本酒を飲んでいるお父さんなんだけど、気付いたら寝ちゃってるんだよね。 起こさないように毛布を掛けてあげます。
そんなお父さんなんですが、土曜日だけは仕事のことも忘れてぼくらと遊んでくれてます。
ぼくらと一緒に釣り堀へ魚釣りに行ったり、妹とゲームをしていたり、、、。
そうそう、押し入れの中にはお父さんたちが遊んでいたっていうオセロゲームとかダイヤモンドゲームとかドライブゲームなんかが埃をかぶったままで眠っています。
「お前、彩葉ちゃんとは会ってるのか?」 時々、思い出したように聞かれるからドキッとしますねえ。
「彩葉? 有って無いなあ。」 「お前、親友だったんだろう? たまには会ってこい。」
普段は優しいお父さんですが、不意に厳しい顔で言ってくるんですよ。 怖い怖い。
望月彩葉、あの子は小学校からの友達でいつも遊んでたんだ。
でもね、彼女は体が弱かった。 太陽アレルギーとか言ってたっけな。
だから水泳も長袖とズボンを履いてプールの片隅でチャポチャポやってるくらいだった。
そんな彩葉を見て男の子たちはいつも笑っていた。 それを見付けるとつかさが激怒するんだ。
「あんたらねえ、ちっとは彩葉のことを考えなさいよ。 わざとああしてるわけじゃないんだから。」
「おーおー、つかさ姫が怒ったぞー。 逃げろ!」 「待て! こらー!」
いつもいつもそうやって彩葉は虐められていたんだ。 そんな彩葉の隣にはぼくが居た。
「ごめんね。 あんなやつらばっかりで。」 「いいの。 私は慣れてるから。」
そう言っても彩葉は隠れて泣いていた。
「たまの土曜日くらい遊びに行ってきなさい。 彩葉ちゃんだってあんたが来るのを待ってるんじゃないのかい?」 お母さんまでそう言ってくる。
ぼくは緊張しながら家を出て彩葉の家に向かうのだった。
彩葉の家は小さな雑貨屋さん。 ノートとか鉛筆とかいつも買わせてもらってたんだ。
でもね、ぼくは仲良しだからって彩葉の部屋にも上がらせてもらってた。
ここしばらくは入試も有ったから遊ぶことも無くなって行かなくなってたなあ。
店は今でもなかなかに繁盛してるらしい。 お客さんがいっぱい居る。
店の前を過ぎて裏に回る。 チャイムを押すと、、、。
「はーーーーーーい。」というおばちゃんの元気な声が聞こえた。 「あらあら、来てくれたの?」
「彩葉は?」 「今ね、通信制に通い始めたから大変みたいよ。 まあ、上がって。」
おばちゃんはぼくを招くと彩葉に聞こえるように大きな声で、、、。 「彩葉、灰原君が来てくれたわよーーーーーー!」って。
少しして「はーーーい。」って元気な声が聞こえた。 彩葉の部屋は二階なのである。
階段を上がると彩葉が部屋のドアを開けて待っていた。 「健太君、、、。」
「元気そうだなあ。」 「取り合えずね。」
机の上には貰ってきたばかりの教科書が山と積まれている。 使っているのがぼくらと同じらしくてホッとした。
「でもさあ、通信制って自分で勉強しなきゃダメなのよ。」 「教えてくれないの?」
「週に一度、学校に行ってまとめて教えてもらうんだ。 でもやれるかなあ?」 「ぼくらも手伝うよ。」
「ありがとうだけど、大変じゃないの?」 「つかさたちにも聞いてみるよ。」
「いいけどさあ、あの子はうるさいから、、、。」 彩葉はベッドに座った。
ぼくらが高校を選んで入試に備えていた頃、彩葉はなんとなく沈んで見えたんだ。 何か有りそうだったけど、ぼくは敢えて聞かなかった。
その頃には通信制を選ぶことを決めてたんだね。 体のことを考えるとそのほうが良かったかもしれない。
だって、これまで彩葉は虐められっぱなしだったからね。
掃除している時に雑巾を投げ付けられたりするのは可愛いほうだった。
わざと牛乳をこぼされたり、弁当を食べてる最中にぶつかってみたり、、、。
そのたびに、それを見付けたつかさがブチ切れて馬宮たちをお説教するんだ。
でもさあ、一度や二度のお説教では効かない連中だったよな。
「馬宮君とか一緒なの?」 彩葉が心配そうに聞いてきた。
「一緒だよ。 うるさくてしょうがない。」 「じゃあ、つかさちゃんは?」
「つかさも一緒だよ。 新しい子も入ったけどね。」 「どんな子?」
「そうだなあ、眼鏡女子。」 「ふーん、、、。」
そう、折原さんのことはまだこれくらいしか分かってないんだ。 近寄れなくてさ。
あの不思議なオーラは何なんだろう? 「私はあなたたちと違うのよ。」
そう言っているようなあの目、、、。 じっと前を見ているあの姿勢、、、。
[クラス1勉強してます。]って言いたいようなあの顔、、、。
そして腰まで伸ばした長い髪、、、。 入学式の時に感じたあの胸騒ぎ、、、。
どれを取って見ても、これまでのクラスメートには無かった物ばかりだ。
「何て名前の子なの?」 「折原、、、優希さんだったかな、、、。」
ぼくもうろ覚えでそれが正しいかどうかは分からない。 「折原、、、さんか。」
彩葉は注いで置いた紅茶を飲みながら溜息を吐いた。
チラリホラリと話しながらいつの間にか2時間が過ぎていたことに気付いたぼくは慌てて席を立った。
「ゆっくりしていけばいいのに。」 「うん。 でもさ、彩葉が疲れちゃうといけないから。」
「そう? 私はいいけど、、、。」 「また遊びに来るよ。 土曜日は暇だから。」
「ありがとう。 待ってるね。」 部屋を出てきた彩葉は寂しそうな顔をした。
鼻歌を歌いながら思い出したようにコンビニに入っていく。 「確か、彩葉は抹茶のアイス 好きだったよなあ。」
ケースを見回しながらお目当てのアイスを二つ手に取る。 レジへ行くと、、、。
「おー、健太じゃないか。 彼女にプレゼントか?」 三つ上の先輩 吉岡裕也である。
「いやあ、妹に買っていくんです。」 「あれ? 妹はアイスよりプリンじゃなかったっけ?」
「ぎく、、、。」 「まあいい。 大事にしろよ。」
先輩は分かったような振りをしてぼくを送り出してくれた。
吉岡先輩は彩葉を虐めてるやつらを見付けると学校中を走り回って捕まえてくれていた。 「田中、手伝え?」
同級の田中守にも声を掛けて挟み撃ちにするんだ。 彩葉は吉岡先輩にも可愛がられてたんだな。
抹茶アイスを袋に入れると来た道を戻って彩葉のおばちゃんにそれを渡した。 「これ、彩葉にあげてください。」
「まあまあ、二人で食べればいいでしょうに。」 「用事が有って早く帰らなきゃいけなくて、、、。」
「分かった。 渡しとくね。 ありがとう。」
家に戻ってきてアイスを食べているとスマホが鳴った。 見るとメールが来ている。
「抹茶アイス、ありがとう。 美味しかったよ。」 彩葉からの簡単なメールだ。
「一緒に食べたかったよ。 次はそうするね。」 返事を返したぼくは部屋の窓を開けた。