Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「来週からだよ。2週間くらい滞在する予定だから、しばらく環菜に会えないね。戻ってくるのはクリスマス前くらいになると思うよ」

「そうなんだ。結構長期間なんだね。でもそう思うと早いな〜。もうクリスマスなんだぁ」

あのスキャンダルはちょうどクリスマス前の12月上旬だった。

つまり、私が女優として世間から消えてもう1年が経つわけだ。

早いような長かったような不思議な期間だった。

「ヨーロッパではクリスマスってどうやって過ごすの?カナダにいた時はその日はどこもお店が閉まって、みんな家族と過ごすホリデーって感じだったけど」

「ヨーロッパも同じようなものだよ。あと、ヨーロッパの場合はこの時期クリスマスマーケットが有名かな」

「クリスマスマーケット!聞いたことある!日本でも真似して駅前広場とかで開催してた気がするなぁ」

「それよりももっと本場は規模が大きいと思うよ。有名どころだと、フランスのストラスブールとかコルマールかな。プラハも特別大きなものではないけど旧市街広場がその時期クリスマス仕様の雰囲気になるよ」

「素敵だね!ストラスブールは前にテレビで見たことがあって行ってみたいと思ってたの!フランス最大のクリスマスマーケットなんでしょ?智くんは行ったことある?」

日本にいた頃も、ライトアップされているような人が集まるところにはなかなか行くことができなかった。

車の中からイルミネーションを見ながら歩くカップルを羨ましく見ていた私なのだ。

ヨーロッパのクリスマスに想いを馳せて、思わず目をキラキラさせてしまう。

そんな私を目を細めて見つめていた智くんが思い付いたように言った。

「僕もストラスブールは行ったことないな。今年のクリスマスに一緒に行ってみる?クリスマスは仕事も休みになるから問題ないと思うよ。どう?」

「行きたい!」

食いつくように私は即答した。

皆川さんの登場に一時心を乱されたものの、今の私には新しい生活があって、智くんがいて、幸せなのだ。

この幸せな偽りの生活が終わりを迎えるまでは、ただ彼のそばで笑っていたいと強く思った。

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