Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
アンドレイのエスコートを受けながら、私たちはアンドレイの知り合いだという人たちに挨拶をしていく。

基本的にこの場は英語が共通言語のようで、私も問題なく会話を理解することができた。

『今日はずいぶん美しい女性をパートナーに連れてるじゃないか』

『カタリーナの友人なんですよ。彼女は日本人なんです』

『初めまして、秋月環菜と申します』

アンドレイは毎回こんなふうに紹介してくれて、私はそれに従って挨拶し、背筋を伸ばして上品な所作で美しく微笑むようにした。

彼が挨拶するのは、だいたい地元の議員やその関係者のようだ。

たまにプラハに会社を構える日系企業の日本人社長もいて、わずかに私は身構えたのだが、特に気付かれる様子はなかった。

『思った以上に環菜が堂々としていて驚いたよ。環菜がいてくれるおかげで、日本の話題になった時にも助かってるしね』

アンドレイの役に立てているようで一安心だ。

この演技が褒められているような気がして、なんだか嬉しかった。

私は休憩がてら立食スペースへおもむき、スパークリングウォーターの入ったグラスを手に取り口に含む。

やはり相当緊張はしていたようで、カラカラに渇いた喉が潤っていく。

アンドレイも同じくワインで喉を潤しているようだ。

『アンドレイ』

ちょうどその時、誰かが近づいてきてアンドレイに親しげに声をかけた。

その声になんとなく聞き覚えがあって、プラハに知り合いなんていないのにおかしいなと思いながら私も振り向く。

するとそこには、先日カフェで助けてくれた日本人男性がいたのだった。

あの時と同じ、ニコニコと表現するのがぴったりな王子様スマイルを浮かべている。

『やぁ、智行(ともゆき)じゃないか。今日はお招きありがとう』

『こちらこそ来てくれてありがとう。ところでそちらは?』

2人は親しげに握手を交わすと、その日本人男性は今度は私に視線を向けてきた。

(お招きありがとうってことは、主催者側の人間‥‥?つまり日本大使館に勤める外交官ってことかな?)

『紹介するよ。こちらは今日の僕のパートナーの環菜。僕の恋人の友人なんだ。環菜、こちらは日本大使館の智行だよ』

『初めまして、秋月環菜です』

桜庭智行(さくらばともゆき)です。でも初めましてではないですよね。この前お会いしたと思うんですが、覚えていませんか?』

知り合いという程でもなかったので、便宜上、私は初対面の挨拶をしたのだが、桜庭さんは逆に先日のことを話題に上げた。




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