Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
バックヤードで水を飲み、少し落ち着いたものの、さっきの会話が頭にこびりついて離れない。

様子を見に来たマネージャーは、あまりの私の顔色の悪さを心配し、「今日はもう帰って休んだ方がいいわ」と優しく早退を勧めてくれた。

これ以上働くのは今日は難しそうだと感じた私も、忙しい中申し訳ないとは思ったが、今日はその言葉に甘えて帰らせてもらうことにした。

帰る時にチラリと店内を見渡したが、もうあの2人組はいなくなっていて、そのことにホッとする。

帰宅までの道のりは、ひどく遠く感じた。

日本人を見かけるたびに、みんなが私の悪口を言っているのではないかと思えてきて怖くなったのだ。

一刻も早く家に帰って1人になりたかった。

ようやく家に着くと、私は自分の部屋に引きこもり、電気も付けずに布団にくるまってガタガタ震える。


ー神奈月亜希って清純派気取ってたくせに超ビッチだった女優だよね。
ー海外でも男漁りしてるんじゃない?
ー文秋に持ってったら情報売れるかな?
ーツイートしちゃおっと!プラハで発見、神奈月亜希、男漁り中っと。


そんな彼女たちの言葉が脳裏に焼き付いて、何度も何度も頭の中でリピートされる。

あの時と同じ、人の悪意がストレートに自分に向かってきて怖くてたまらなかった。


(あのツイートが拡散されて、私がプラハにいるって知られたらどうしよう‥‥!?記者が押し寄せてきたらどうしよう‥‥!?せっかくプラハで知り合いも増えて私の世界が広がりつつあったのに‥‥私はまた逃げないといけないの‥‥!?)


恐怖と同じくらい悔しくて悲しくて、涙が溢れてくる。

そのまま時間も忘れて、私はただひたすら布団にくるまってガタガタ震えていた。


どれくらいの時間が経ったのだろう。

部屋のドアがノックされる音が聞こえてビクッと身体を強ばらせる。

意識がぼーっとしていて、ドアの前で何か声が聞こえる気がするが頭に入ってこない。

そのまま布団にくるまってじっとしていると、焦ったようにいきなりドアが開けられた。

虚な目でそちらを見やると、仕事帰りだと思われる智くんが立っていた。

智くんは私を視界に入れると、あのいつもの笑顔ではなく、目を見開き驚いた顔をしている。

ぼんやりした頭で、こんなに分かりやすく表情を出すのは珍しいなと思った。
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