カサブランカで会いましょう。
 隣のラーメン屋も平常運転みたいだな。 あそこの親父さんも味にはめっちゃうるさいから。
こだわりのスープが出来るまで鍋から離れないっていうくらいだからね。 こちらのマスターと同じですねえ。
 琴美さんは美味しそうにチーズケーキを食べてます。 〈ザ幸せ〉って感じ。
何なんだろう かぼちゃワインみたいなこの乗りは? 「さあてコーヒーが入ったぞーーーー。」
「そんなに叫ばなくても聞いてるわよ みんな。」 「そうか? 聞いてないと思ってた。」
「あのねえ、こんな小さな店で聞こえなかったら終わってるわよ。」 「お前だって聞いてない時が有るじゃねえかよ。」
 「そりゃあ、たまには聞いてない時も有るわよ。 ずーーーーーーっと聞いてたら頭おかしくなりそうだもん。」 「一本!」
「和田さん それは無いよ。」 「やられっぱなしだからたまにはいいだろう?」
「だってよ。 マスター。」 「負けたわ。」
 琴美さんは吹き出したいのを我慢しながらチーズケーキを食べている。 「ほらほら、琴美さんが苦しそうな顔をしてるじゃない。」
「ごめんなあ。 こんな嫁で。」 「ブ、、、。」
 「あらまあ、吹き出しちゃったのね? タオル持ってくるわ。」 「すいません。 あんまりにおかしいもんで、、、、。」
「ごめんなあ。 嫁が変なことばかりやって。」 「おめえだろうが!」
「ガブ、、、。」 琴美の前に立っていた俺に清美が熱いタオルを投げつけてきた。
「ストライクーーーー。 奥さん コントロールいいねえ。」 「そう? ありがとう。」
 「何がありがとうだよ? 顔に命中させておいて。」 「ごめんなさいねえ。 つまんないところを見せちゃったわ。」
「マスターも奥さんも大丈夫ですか?」 「やつは不死身だからいいの。」
「そうよ。 このおじさんは長くは生きられないから私に妬いてるのよ。」 「お前なんかに妬くかってんだ。 うすらデブ。」
「いいもん。 私はデブなんだもん。」 「また始まったぞ。」
「またって何よ? またって?」 「これを言い出すと長いんだよなあ。」
「仲いいんですねえ。」 「最高に悪いよ。 ごちそうさまと文句しか言わないんだから。」
「あなたでしょう それは?」 所詮、夫婦の喧嘩は犬も食わないという。
そんな喧嘩を毎朝毎昼毎晩毎夜やっているのであります。 疲れないのかねえ?
疲れたらそれは夫婦じゃないかもなあ。 と玄関が開きました。
 「こんにちは。」 「はいはい。 あーら、李多ちゃん。」
「うわ、来おった化。」 「それはないよねえ。 李多ちゃん。」
「いいんです。 チーズケーキが食べれたら、、、。」 「あらあら、素直な子ねえ。」
「あらあら、素直な嫁ねえ。」 「あなたは余計なの。」
「すんましぇん。」 「可愛くないわよ。 早くケーキを出してあげなさい。」
「うわ、旦那に命令する気か?」 「命令じゃないわよ。 指令してるの。」
「グググ、、、。」 「ほらほら、馬鹿なこと言ってるから琴美さんが苦しんでるじゃない。」
 「お前が余計なことを言わなきゃいいんだよ。」 「どっちもどっちだよ。」
「正解。」 「あらあら、琴美さんまで、、、。」
 こんな調子で今日もカサブランカは賑やかなんですよ。 まったくもう、、、。

 1時間ほどして琴美さんが席を立った。 「ごちそうさまでした。 また来ます。」
「ありがとう。 何回でも来てね。」 「あんた、それは余計だよ。」
「何が?」 「何回でもってのは言い過ぎだってば。」
「まあ、いいじゃないですか。」 そこに李多ちゃんが一言。
 「では失礼します。」 ペコリと頭を下げた琴美さん、、、。
清美はテーブルの上に何かが置いてあるのを見付けて飛び出した。 「琴美さーーーん、忘れ物。」
「え?」 一瞬戸惑ったらしいけれど焦っている。
 「これこれ。」 清美が差し出したのは小さなキーホルダーだった。 「すいませーん。 財布に付けておいたんですけど、、、。」
「可愛いわねえ。」 「でしょう? 私が飼ってた犬が死んだんで写真を見せて作ってもらったんです。」
 「へえ、そんなことが出来るんだ?」 「今はいろんな仕事が有りますからねえ。」
「うちの旦那も死んだらキーホルダーにしてもらおうかな。」 「それはやめたほうが、、、。」
「そうよね。 じゃあまたね。」 清美は駅のほうへ歩いていく琴美さんを見送ってから店に戻ってきた。
 「おー、帰ったか。」 「帰ったかじゃないわよ。 まったくもう、、、。」
「また噴火してるな? 可愛くないぞ。」 「いいんだもーん。 可愛くなくたっていいんだもーん。」
「変なやつ。」 「お互い様じゃないか。」
「セーフーーーー。」 「何だよ?」
「案山子とお多福の夫婦なんだもん。 互いに変人よねえ。」 「また始まった。」
 「ほらほら、言い返せないから燻ぶってる。 男がこれじゃあおしまいよねえ?」 「そうだねえ。」
「和田さん それは無いよ。」 「いいのいいの。 たまには奥さんを可愛がってあげなさい。」
「おー、よしよし。」 「気持ち悪いってば。」
「だって和田さんが可愛がれって言ったんだもん。」 「空気読めてないなあ。」
 李多がボソッと言ったことを清美は聞いていた。 「そうなのよ。 空気読めないの この人。」
「いいんだもん。 水を読んでやるんだもん。」 「どうやって読むのよ? アホらしい。」
 「まあまあ、今日も楽しかったわ。 また来るよ。」 和田さんは苦しい顔をして帰って行った。
「さてと、もう夕方だねえ。」 「だから?」
「だからって何さ?」 「夕方だから何なのかな?って思って。」
「何でもいいじゃん。」 「何でもいいのか。」
 「おじさんには何でもいいのね?」 「李多ちゃん、、、。」
李多はチーズケーキを食べながら俺の顔をしげしげと見るのでありました。
 「その目が怖いんだけど、、、。」 「あんたの顔のほうが怖いわよ。」
「そうかもしれないなあ。」 「李多ちゃん 分かってるーーー。」
「食べ物を相手にしてる人って顔が怖いんですよ。 うちのお父さんもそうだから。」 「そうだなあ。 あの親父さんは怖いなあ。」
「あんたはそれよりも怖いから出てこないで。」 「出てこないと商売になりませんが。」
「チーズケーキだけ作ってくれたらいいわよ。」 「言うなあ、、、。」
 李多はコーヒーを飲みながら二人の会話を聞いております。 そこへいつかの若い男が入ってきました。
「マスター、今日こそはアラモードを食わせてよ。」 「予約もしてねえのに出せってか?」
「いいじゃん。 食わせてよ。」 「こないだも言っただろう? 予約しないと作らないんだよ。」
「やっぱり詐欺師じゃねえか。 警察に訴えてやる!」 「ああ、何処にでも言ってくれ。 誰も聞かねえと思うけどなあ。」
「何だと? 俺を舐めてるのか?」 「お前なんか舐めてどうするんだよ? 不味いし臭いし汚いしどうしようもねえよ。」
「てめえ! 俺を怒らせたらどうなるか知ってるのか?」 「どうにもならねえよ。 お前、角のスーパーの息子だろう? あそこの親父とは仲がいいんでな。 悪かったな。」
「てめえ、ふざけんじゃねえよ! 表に出ろ!」 「休みの日に相手をしてやるよ。 今は仕事中だから。」
 マスターと男が言い争っている間に李多が店に戻りました。 清美は(何をしてるんだろう?)って不思議に思ったようですが、、、。
10分ほどして李多が戻ってきました。 その後ろには親父さんが、、、。
 「よう、片平君じゃないか。 ここで何をしてるんだ?」 「うっせえ! 黙ってやがれ! こいつをとっちめてるんだ!」
「元気がいいねえ。 若いってのはいいもんだなあ。」 「舐めんじゃねえよ!」
 そこへもう一人のおじさんが、、、。 「敬之 ここで何をしてるんだ?」
「親父には関係ねえだろう? 引っ込んでくれ!」 「のぼせるんじゃねえよ! お前は何様だ!」
「う、、、。」 おじさんがどすの利いた声で男を叱り飛ばしました。
「李多ちゃんから聞いたからいいけどアラモードを出さないからってマスターを脅してたんだってな? お前は最低の子供だよ。 金輪際 家には帰ってくるな! 魂を入れ替えるまで顔も見せるな! 分かったか!」
親父さんのド迫力に押されてしまった男は何も言い返せません。 「マスター、悪かったな。 俺が責任を取るから任せてくれ。」
そこまで言われたら出るわけにはいきません。 清美も頷きました。
 親父さんは男を引き摺り出すようにして店を出ていきました。 「あいつはやっぱり何も分かってなかったな。」
「マスターも大変だねえ。 あんな男に絡まれちまって。」 「いいんすよ。 李多ちゃんみたいな人が居るから助かってます。」
「オーホッホ。 よく言った。」 ラーメン屋の親父さんもホッとした顔で帰っていきました。
「喧嘩の後で飲む水は美味いなあ。」 「私としてもそうなのかなあ?」
「お前の喧嘩は毎日のことだから。」 「あっそう。 美味しくないのね? 寂しいわー。」



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