カサブランカで会いましょう。
 しばらくしてどっかで見たことの有る男が入ってきた。 「お前さあ俺のだちに何てことをしてくれたんだ?」
「は? 何もしてねえけど。」 「嘘吐くな! 親父にチクって説教させたんだってな?」
「だから何だよ?」 「この店ごと捻り潰してやろうか?」 「お前にそんな芸当が出来るのか?」
「のぼせんじゃねえ! 俺を誰だと思ってやがるんだ!」 「近所のうっせえおっさんだろう?」
 騒いでいる男が飛び掛かってきた。 「危ねえなあ。 こんな狭い所で暴れるんじゃねえよ。」
「何だと! てめえくらい腕一本で捻り潰してやらあ!」 「酔っぱらいはこれだから困るんだよ。 水持って来い。」
 清美は何を思ったのか洗面器に水を入れて持ってきた。 「ほら水だぜ。」
暴れている男に水をぶっかける。 清美はそれを見ながらバケツに水を汲んできた。
 「うわーーーー! 何しやがるんだ! 殺されるーーーー!」 「勝手に騒いでろ。 馬鹿。」
ずぶ濡れになった男を摘まみだしてからマスターは熱いコーヒーを飲んだ。 「馬鹿もあそこまでなったら救えねえなあ。」
 「ねえねえ、お店ぐちゃぐちゃじゃないよ。 どうするの?」 「今日はもう終わりだ。 仕事になんねえ。」
「んでどうする?」 「隣のラーメンを食べに行こうぜ。」 「そうよねえ。 たまにしか行かないもんねえ。」
 そんでもって清美も久しぶりにちょい美味ラーメンを食べに行くのでした。 「いらっしゃーーーい!」
親父さんは今日も元気いっぱい。 奥さんも裏で仕事をしてます。
麺は奥さんが作ってるんだって。 親父さんもベタ惚れらしい。
 「何食べる?」 「お勧め二つ。」
「マスターが二つ食べるのか?」 「そうじゃなくて今日は嫁も来てるから。」
「悪い悪い。 嫁さんが居たんだよな。」 それを聞いた清美は見えるようにマスターにくっ付いた。
「愛し合ってるなあ あんたら。」 「今だけね。」
「何だよ 今だけって?」 「普段は憎み合ってますから。」
「その真ん丸い顔でか?」 「もう、、、。」
「まあまあお二人さん このラーメンでも食って仲良くしな。」 親父さんが出してきたのはメンマやら葱やら肉やらがいっぱい載っている熱々の豚骨ラーメンだった。
 「ラーメンっちゅうもんは熱いうちに食べるんだ。」 親父さんはいつも客にそう言うらしい。
そうだろうなあ。 豚骨なんて冷えたら食えたもんじゃないからなあ。 脂が固まっちまってさあ。
 でもなんか冷えたラーメンも美味いって聞いたことが有る。 もちろん親父さんには言えないよ。
そんなことを言ったら「てめえ ラーメンを馬鹿にしてるのか!」って噴火するから。 奥さんがそっと教えてくれた。
 麺を作るんだって大変だよなあ。 フニャフニャじゃあ食い物にならねえし、ボロボロでも売り物にならない。
フワフワしててもどうかなって感じだよな。 適当な歯応えが無いとこってりスープには合わない。
 だからさあ、最初の半年は泣きながら作ってたって聞いたよ。 精魂込めて作っても気に入らないと目の前で捨てられるんだから。
やっと親父さんが気に入った麺を打てるようになるまで奥さんは夜中も必死に練習してたんだって。 寝れなかっただろうなあ。
 ラーメンを食べているとさっきの親父さんがやってきた。 「おー、食べに来てたのか。」
「そうなんす。 あの後で酔っ払いが絡んできて仕事出来なくなったもんだから。」 「あんたも大変だなあ。 息子にお灸を据えとくよ。 金森のおっさんだろう?」
「へえ、あの人 金森さんって言うんだ。」 「知らなかったか?」
「うちの店には来たことが無いから。」 「そうかそうか。 あいつも飲むようになってから荒れたんだよ。 バカバカしいやつだ。」
「おやおや、片平さんも来たのか。」 「親父さんのラーメンを食べたくてさ。」
「あいよ。 飛びっきり美味いやつだぞ。」 そうそう、片平さんは味噌ラーメンが大好き。
そこに蒲鉾やらモヤシやら葱などが載ってます。 美味そうだなあ。

 食い物屋といえばたいそうな我儘な店も在ると聞く。 いつかのテレビ番組でやってたっけ。
松茸を焼いて食わせる店が在る。 「せっかく美味いのを食わせるんだから鼻も耳も眼も閉じてじっくり味わえ。」って親父さんは言うらしい。
 はたまた牛肉の美味いのを焼いて食わせる店が在る。 二人の女が3枚の肉を焼いていると、、、。
「この肉は誰が食べるんだ?」と店主が聞いてくる。 答えられずにいると「肉は人数分焼くんだ。 多かったら焼け過ぎるじゃないか。 せっかくの美味いのが台無しだ。」
そうやってお説教をする。 有り難いような有り難くないような、、、。 かと思うと熱々の焼きたてを「何分以内に食え。 食えないならお持ち帰りにしろ。」なんて言ってくる店主も居るとか、、、。
今はどうしてるんだろうなあ? 言いたいことは分かるんだけどさあ、全部が全部、受け入れられるとは思えない。
 肉を人数分焼けってのは分かるよ。 焦げたんじゃあせっかくの肉も不味くなるからなあ。
このラーメン屋の親父さんも言い出したら聞かない人でね、ごねる客にはとことんブチ切れるんだ。 まあさあ気に入ったスープが出来ない時にはとことん機嫌が悪くなる。
そんな日に「ラーメンを食わせろ。」なんてごねたら大変だ。 近所中に聞こえるような大声で怒鳴り散らすんだからなあ。
通り掛かった知り合いが止めに入ることだってよく有る。 でもたいていは収まらないんだ。
 「ごねるから悪いんだ。 店を休もうがどうしようが俺の自由だ。」 そう言い張って親父さんは譲らない。
ごね回ったやつは仕方なく引き下がるしか無いんだけど、「おめえのラーメンなんて絶対に食べてやらねえからな!」って余計なことを言う。
「てめえ一人が食わなくったって食ってくれる客は山ほど居るわ。 心配するな!」 親父さんも負けてない。
 親父さんと客との喧嘩は珍しいことじゃない。 この商店街の名物と言ってもいいくらいだよ。
そりゃなあ、俺だって喧嘩することは有るよ。 親父さんほどじゃないけどね。
 そんでもって二人揃ってスープも飲み干して帰ってきました。 「お腹いっぱいねえ。」
「あのラーメンは悪魔だぜ。」 「あなたのチーズケーキは魔女だけどね。」
「何だいそりゃ?」 「いいのいいの。 明日も頑張ってねえ。」
清美はそう言うと部屋に戻っていきました。 そして、、、。
 「たまにはブログを読んでみようかな。」 そう思って琴美がやっているブログを開いてみました。

 『カサブランカで食べたチーズケーキの話。』

 そこにはチーズケーキの写真がドンと載っています。 「やるなあ、、、。」
コメントを読んでみると、、、。

 『カサブランカのマスターと奥さんは兎にも角にも賑やかで仲が良くて面白過ぎます。 あんな個性的な二人がやっているお店 それがカサブランカ。
目玉はチーズケーキ。 これはマスターのお気に入り。 「これでいい。」と思った物じゃないとお客さんには出さないんですって。
 そしてお供のコーヒーもまた拘りが有るそうです。 すごいなあって思います。』

 読みながらクスクス笑っている清見だが、終いには我慢できなくなって笑い転げてしまった。
「何だい何だい、地震でも起きたか?」 「違うわよ。 琴美さんのブログを呼んでたの。」
「あっそう。」 「冷たいなあ。 せっかく報告してやってるのに、、、。」
「後で読むからいいよ。」 「んもう。 じゃあお風呂沸かしといてね。」
「何でだよ?」 「私の話を聞かない罰。」
「へえへえ、そうですかそうですか。 お嬢様。」 「嫌なら一緒に入ってあげないわよ。」
「うわーーーーー、分かった分かった。」 「んもう、これだからなあ。 おじさんは嫌らしいのよねえ。」
「お前だってそうじゃないか。」 「あなたが望むからしてるだけですわ。」
「はいはい、そうですね。」 清美はまたまたブログに目を落とした。

 『時々、マスターは大噴火します。 今日だってそうだったんだって。
チーズケーキを食べに来ていたラーメン屋の娘さんに教えてもらいました。 プリンアラモードを予約せずに作れって迫った男の人が居たそうで、、、。
 マスターも大変なんですねえ。 でもやっぱり物分かりの悪い人は嫌です。
「俺は何とでもなる。」って思い込んでいるお坊ちゃんが多過ぎる気がしますね。 マスターには頑張ってもらいたいな。』

 「へえ、李多ちゃんとも友達なんだ。 琴美さん。」 分かる気がする。
名付けてチー友とでも言うのでしょうか? この次が楽しみです。




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