若旦那様の憂鬱〜その後の話し〜
「久しぶりに花を独り占め出来る。」
柊生がにこりと爽やかな笑顔を向けてくるから、

「ふふふっ、いつも椋ちゃんに邪魔されちゃうもんね。」
花は気が付いて笑う。

「俺の1番のライバルは椋生だと思ってる。」

笑いながらもそう言う柊生の本音が見え隠れする。

「柊君の事だって同じくらい大事だよ?
柊君がいなかったら独りで椋ちゃんを育てる事なんて出来なかったよ。」

両手で柊生の大きな手のひらを握り返す。

「良かった。俺の存在価値があったみたいだ。」

「何言ってるの。柊君は私の救世主だよ。
いつもピンチな時に駆けつけて助けてくれるから、柊君がいなかったら今、ここにいないかもしれないよ。」
花が真剣な顔で言う。

「それは言い過ぎだろ。」
ハハっと柊生が笑う。

「子供の頃に私が頭切った時も、学校で熱出して倒れた時も1番に柊君が駆けつけてくれたよね。」
花は思い出して、昔話しに花が咲く。

「いつだって親が旅館の仕事で忙しかったから、直ぐに駆けつけられるのは俺しかいなかったんだよ。」

「でも、学校で倒れた時、実はテスト中だったって後から聞いて申し訳ない気持ちになったんだよ。」

「知ってたのか…。
確かにテスト中だったけど、学校も理由を聞いたら許してくれて、後でこっそりテスト受け直させてくれたから大丈夫だったんだ。」

運転しながら、柊生も昔に思いを馳せる。

「今思うと、あの時から花は大事で特別な存在だったんだと思う。」

「えっ……だって私、小学生だったよ?」
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