【SS】夏、君の隣で
夏、君の隣で
肩を並べて、しゃがみこんで。
月が輝く空の下、残った火薬の匂いが風に乗って薄れる。
「じゃあ、火をつけるよ」
「うん」
ライターをカチッと鳴らして、君は揺らめく火を線香花火の先端に近付けた。
パチパチ……
小さな音が鳴り出して、火花が散る。
君の線香花火も小さな花を咲かせた。
2人で火花の瞬きを見る時間は、短いようで長くて、長いようで短くて。
「綺麗だね」
「うん……綺麗、だね」
そんなありきたりな言葉を君と交わして、穏やかな時間に浸かる。
パチパチと力強く咲いた花が勢いを落としていくと、私は風に乗せるように言った。
「――好きです」
びゅう、と、その時一際強い風が吹いて、膨らんだ火玉が落ちてしまう。
バケツの中でじゅじゅっと音がして、顔を見合わせるように君を見ると、眉を下げて笑う顔があった。
「落ちちゃったね」
そう言ってから君は、表情を変えた。
微笑んだ顔から紡がれた言葉は、私の胸に甘い幸せを運ぶ。
fin.


