この『恋』の言い換えをするならば『瑕疵』(かし)です

「もしもし…」



「もしもし瑛茉?」



「うん、お兄ちゃんなに?」



「せっかくお土産買って来たのに
もお帰ったんだな」



「うん」



「何してた?」



「今?特に何もしてない」



クーラーの効いた部屋

ベッドの上にずっといる



そしたらお兄ちゃんから電話がきた



お兄ちゃんは残酷だ

ひとりの私をかまってくる



「特に用なかったら
もっとゆっくりして行けよ」



「うん、でも…
そっちにも特に用ないし…」



「そお?
オレは瑛茉に会いたかったけど…」



そんなこと言わないでよ



「じゃあ会いに来ればいいじゃん
アパート知ってるのに
お兄ちゃんぜんぜん来ないじゃん」



「だって彼氏に悪いし…」



私はお兄ちゃん彼女いるのに
アパートに遊びに行ったよね

お兄ちゃん迷惑だった?



「別に、悪くなんかないよ
彼氏はお兄ちゃん来たって
別になんとも思わないよ」



「そっか…そーだな…
兄妹だしね…」



兄妹



「うん…
さっき、別れたんだ
私、彼氏と別れたんだよ」



言わなくてもいいのにね



「え…さっき?」



「うん、さっき」



こんなタイミングで
電話をかけてくるお兄ちゃんて…



「瑛茉、大丈夫?」



「大丈夫って?」



「ひとりで大丈夫?」



「うん、大丈夫だよ」



ずっとひとりだよ


彼氏がいても
ひとりみたいだった


それは夏目先輩が悪いわけじゃなくて
私に問題がある


きっとこの先
誰と付き合っても

私の気持ちは満たされない


ずっとひとりだよ



「お兄ちゃんは?
旅行楽しかったの?」



彼女と行ったの?



「うん、楽しかったよ
温泉で瑛茉が好きそうな料理出た」



へー…温泉行ったんだ



「私が好きそうな…って…なに?」



「小さい頃、よく家族で行ったじゃん
温泉の料理、瑛茉好きだったな…って…
浴衣着て喜んでたじゃん」



「うん…なんか覚えてる
楽しかったよね、家族旅行」



「今度一緒に行こうよ
まだ夏休みだろ」



「うん
でもお父さんとお母さんの
仕事の休み合わないよね?
夏はお母さん忙しいし…」



「うん
ふたりで行こう」



「え…」



「彼氏にフラれて落ち込んでる夏休みとか
つまんないだろ」



「フラれてないし…」



「瑛茉がふったの?」



別れを告げたのは私だけど
拒まれることもなかった

フラれたのと同じ



「そーゆーわけでもないけどね…
あ、私も夏休みは無理かも
いろいろやらなきゃいけないことあって…」





お兄ちゃんとふたりで旅行とか
無理だよ



「そっか…忙しいのか…」



「うん
じゃあ切るね!」



忙しいふりをする

お兄ちゃん離れをしたふりをする

もぉお兄ちゃんのことは…



「うん…
暇な時、帰って来いよ」



「うん
お兄ちゃん、バイバイ…」



お兄ちゃんのことは
もぉ、好きじゃない



…ふりをした



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