【アイドル=先生】推しに洗脳されたい。
スマホに写っているのは、顔の整った青年たちが笑顔で踊っている姿だった。
「何これ……?」
「知らないの?人気急上昇中アイドル・”lehren”」
グループ名を聞いても、英子は全くピンと来なかった。
そんな英子を他所に、彩羽は目の色を変えて暑く語り出す。
「確かにlehrenはメジャーデビューはまだだけど、パフォーマンスのレベルは、そこら辺のアイドルとは比べ物にならないくらいレベチ!!歌も踊りもピカイチなんだから!!しかも、パフォーマンスだけじゃなくて、ファン対応も神!!ファン一人一人を大切にしてますって感じが伝わってきてね……」
突然早口で語り出す彩羽に、英子はついていけるはずもなく、その迫力に圧倒されていた。
「み、魅力は分かったから!!それで、彩羽はこの中で一番誰が好きなの?」
とりあえず彼女を落ち着かせるために、英子は咄嗟に質問した。
「それはもっちろん、”lehren”のエース・春田 洸くんよ!!」
彩羽はスマホの画面を二本指で操作し、動画内の春田洸を拡大した。
明るめの茶髪に猫っ毛、マッシュヘア。
瞳の色は、美しい淡褐色。
薄い唇で、左口端にあるホクロが特徴的な美青年だった。
「洸くんは別名・”ステージ上のキラー”なんて異名を持っててね、パフォーマンス中に”今私にファンサした…?!”って思わせるのが上手なの!!私も洸くんに何度ファンサされたことか……。ファンサされちゃったら、もう推すしかなくなるよね?!」
更に圧を掛けてくる彩羽に、英子は質問を間違えてしまったと、後悔した。
「えーっと……すごいね」
「でしょでしょ?!少しは興味出てきた??」
ここで、”全然出てこない”なんて返したら、持っているスマホをこちらに向かって投げられそうな気がして、英子は頷くことしか出来なかった。
「それなら、今日の帰りにライブに行こうよ!!」
「ライブ……?!」
「実は、チケット一枚余ってるの。ハナになら譲ったげる!!」
譲ってあげるも何も、興味なんてないのだが……。
英子は、誘いを断ろうと口を開くも、タイミング悪くチャイムが鳴り響いた。
チャイムが鳴ると同時に、一人の男性が教室に現れた。
「はーい、席に着けー」
暗い印象を与える黒髪に、伸び切った前髪のせいで目元は全く見えない。
しかし、黒縁眼鏡を掛けているのだけはギリギリ分かる。
そんな彼は、ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
彼の登場に、教室中はざわついた。
「今日から一年間、このクラスの担任になった安芸 千影だ」
彼がその言葉をは発した途端、クラス中が凍りついた。
なぜなら、この安芸千影という教師は、校内でもかなり厳しい教師とお墨付き。
居眠り、お喋りをする生徒には容赦なく教壇からチョークが飛んでくる。
噂ではたまに、黒板消しが飛んでくる日もあるらしいが。
そんな彼は、”教壇上の鬼”の異名を持っていた。