最強の花嫁は最愛の花婿を守る為に牙を剥く




一体どこをどう走り回って、この場所に辿り着いたのか。

薬物疑惑のある危ない女にホッペにチューされるというショッキングな体験から我に返った時、志藤尊は見慣れた建物の中にいた。

彼が特待生として通う、私立桜坂大学である。

フラフラとした足取りで教室へと向かい、ドアを開けた瞬間、悪友達が馬鹿騒ぎをしている光景を見て無性にホッとした。

男4人、女3人の賑やかなグループが、戸口で突っ立っている尊に気付いて声を掛ける。

「尊、おはよー。」

「あんたの席も取っておいたよー。」

「…おはよう。」

「尊君、何だか元気ないねぇ。…あれ、荷物は?」

尊が着席するなり、悪友の1人、西野マナがそう言って顔を覗き込んできた。

すかさず、隣にいた男が言う。

「どうせ『また』女の子にフラれたんだろ。いつものことじゃん。」

「えー!?尊君『また』フラれちゃったの!?」

その誤情報は瞬く間に広がり「何?何?尊が『また』フラれたって?」「今度は誰に告白して玉砕したんだよ。」と無神経な輩がわらわらと集まってきた。

「…べ、別にフラれてないし。」

「今月に入って何人目だっけ?」

「いや、だから、フラれてないってば。」

「尊君、面白いのに、何で彼女できないんだろうねぇ。マナ、不思議だなぁ。」

「じゃ、マナちゃん、俺と付き合ってくれる?」

「えー、マナ、面白いだけの人はちょっとぉ…。」

「………。」

「今、マナにもフラれたから、尊君の今月の失恋人数、6人になっちゃったねぇ。記録更新おめでと~。」

「………。」

いつもならここで尊が切れて教室で大暴れし、講師に怒られるまでが彼らのお約束の流れになっている。

しかし、今日はそうはならなかったので、仲間の1人が心配そうに聞いてきた。

「どうしたんだよ。マジで体調が悪いのか?」

「…あのさ。」

尊が深刻そうな顔つきで切り出す。

そのただならぬ様子に、友人達も思わず固唾を呑んで、言葉の続きを待った。

「俺…もう結婚できないかもしれない…。」

「はぁ?」「ど、どうしたの、尊君、泣いてるの?」

「聞いてくれよ…俺、彼女だってまだ出来たことないのに…それなのに…無理矢理…。」

「お、おい、無理矢理どうしたんだよ。何かされたのか?」

「無理矢理…結婚させられて…今朝、起きたら…裸の女が隣に…。」

一瞬の間。いつもなら笑い飛ばして終わるところだが、尊のやけに不安げな表情を察して、仲間が口々に言う。

「お、落ち着けよ、尊。冷静になれ。お前はモテないんだ、結婚なんか出来るわけないだろ。」

「うんうん。何があったか知らねぇけど、気をしっかり持て。裸の女なんて、きっと童貞をこじらせたお前の妄想だよ。」

「お、お前ら…。」

仲間の精一杯の励ましに、尊は感謝するべきなのか、はたまたこいつらとは縁を切るべきなのか悩んでいると、男の1人、宮本修二が申し訳なさそうに言った。

「気付いてやれなくてゴメンな、尊。お前がモテないあまり、そんな幻想を見るほど思い詰めてたなんて。…お詫びと言っちゃ何だけど、俺の知り合いを紹介しようか?」

「し、修二君…いや、修二様…。」

「バイト先の女の子で、聖蘭女子に通ってる、ちょっと大人しい感じの子なんだけど…。」

尊の死んだような目に再び希望の光が宿る。

その直後だった。




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