最強の花嫁は最愛の花婿を守る為に牙を剥く




「…スミカ?」

「…知ってんのか?」

義龍が胡乱げにもらした瞬間、壱の眉間に剣呑な皺が寄った。

「夜と雰囲気が違うから一瞬気付かなかったが、神楽町でホステスをやってる女だ。…学生だったのか。最近じゃ日本大進會(にほんだいしんかい)の副代表に気に入られて、随分と派手に稼いでいるらしいが…。」

「日本大進會?」

すると、義龍がその綺麗な顔にうっすらと怒りを滲ませて「…脅威度リストのE項目に名前が挙がっていただろう。先週渡したはずだぞ。まさか読んでないのか?」

「ああ、あれな。うん、見た見た。すごく役に立った。」

壱がそう言って目を泳がせながら、先週の出来事を思い出す。

確かに、そんな資料を渡されたような気もする。

…ただ、読む直前に部屋の片隅からひょっこり顔を出したゴキブリを叩き潰す為、丸めて使ってしまったが。

嘘は言っていない。

その資料は(チラッとだけ)見たし(ゴキブリ退治に)すごく役に立った。

しかし、そんなトンチみたいな言い訳はこの堅物の情報屋には通用しないだろうから、後で仲間にコピーを送ってもらおう。

義龍が壱の横顔を睨みつけながら説明する。

「日本大進會は以前から志藤組と小競り合いを続けている政治団体だ。その連中が贔屓にしてる女と志藤組の跡継ぎが、何で仲良く腕なんか組んでる?」

大学生カップルの微笑ましいデート風景が、一転してきな臭いものになる。

壱は純花に対する見方を少し変えて、義龍に言った。

「義龍、あの女の身辺を洗えるか?」

「俺も暇じゃないんだが。」

「もう、そんな冷たいこと言わないでっ。壱からのお・ね・が・い★」

そう言って、壱が義龍の右頬にチュッとキスをすると、即座にゾッとするほど冷ややかな眼差しが返ってきた。

まぁ、これが正常な反応である。

こんな男女のキスで、顔を茹蛸みたく真っ赤にして取り乱す尊の方が異常なのだ。

壱が改まった態度で言う。

「頼むよ、義龍。」

「…チッ。」

その舌打ちが、了承の返事だった。

壱がビルとビルの隙間からのぞく真っ青な空を見上げて、ポツリと呟く。

「…こりゃ血の雨が降るかもしれねぇな。」

それから、深々と嘆息し「クソ、新婚気分を味わう暇もねぇ。」

そうぼやく壱の顔を、義龍が横目で見やる。

そこには、言葉とは裏腹に血の雨がこの地に降り注ぐ瞬間を心待ちにしている女の歪な笑みがあった。




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