純愛メランコリー

第6話


 一層真面目な表情を浮かべた蒼くんは、掴まれた腕と私を見比べ、どうすべきか惑っていた。

 とにかく尋常じゃないことは伝わっているみたいだ。

「何……? どういうこと?」

 不穏な気配に怯みつつも彼はそう聞き返してくれる。

 さすがに取り合ってくれないかと思ったけれど、蒼くんが優しくてよかった。

「私、殺されるの。隣のクラスの向坂くんに」

 彼の腕を離しつつ、なるべく淡々と事実を告げる。

「実際にもう何度も殺されてて、そのたびに時間が巻き戻る。……“今日”は初めてじゃない、もう生きたの」

 蒼くんは気圧されたように黙り込み、ただじっと私の双眸を見つめていた。

 真剣さを測るみたいに。

「ちょっと、待って。……本当に言ってる?」

「本当。こんな嘘つかないよ……!」

 訴えかけるように見返したけれど、彼は困ったように笑って視線を流した。

 信じられない、と言わんばかりの表情だ。

 それが普通の反応なのだと思う。

 否定されないだけまだましだ。

 私だってクラスメートから突然こんな相談を受けたら、からかわれていると思うはず。

 でも、だからって彼の協力を諦めるわけにはいかない。
 きっと、今頼れるのは蒼くんしかいないから。

 私は小テストの勉強をしている女の子の方を指し示した。

「見て。もうすぐあの子のシャーペンが落ちる」

 果たしてその言葉通り、机の上を転がったシャーペンが床に落ちた。

 それを目の当たりにした蒼くんは、驚いたように瞠目して私を見やる。

「凄い。何で分かったの?」

「言ったでしょ……? 私、今日はもう何度も生きてるの」

 実際に教室の風景を目にしたのは、そしてその記憶があるのは、少なくとも“昨日”だけだったけれど。

「でも、シャーペンくらいなら偶然かも────」

「じゃあ、あれ見て。あの人が立ち上がったとき、ぶつかって水がこぼれるから」

 とにかく必死だった。

 蒼くんにループのことを信じて貰わない限りは、話も事も進まない。

 スマホを囲んでいた男の子の中の一人が立ち上がると、その拍子に後ろを通った別の男の子にぶつかった。

 私の言葉と(たが)わず、衝撃でペットボトルの水がこぼれる。

 蒼くんは目の前の光景に圧倒されたみたいだった。
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