純愛メランコリー

「本当なの……? 予言じゃん、これ」

 男の子の謝る声を聞きながら、ゆるりと私の方を向く蒼くん。

 次の瞬間、右手を取られ、包むように握られた。

「俺……信じるよ、菜乃ちゃんの話。もっと詳しく教えて」



*



 人気(ひとけ)のない裏庭に場所を変え、私は蒼くんにループについて一通りの説明をした。

 理人に殺されていたことまで話せば、彼はかなり衝撃を受けたようだった。

 無理もないだろう。

 傍から見れば、私と理人は仲睦まじい関係にしか捉えられなかったと思うから。

 人一人分空けて、私たちは花壇を囲むレンガに腰を下ろしていた。

 緩やかに風が吹き抜ける。

「理人くんが亡くなったことで、ループは一度終わったんだ?」

「……うん」

「でも今度はそれまで助けてくれてた仁くんに殺される、と」

「そう……」

 確かめるみたいに言う蒼くんに、私は俯きながら頷く。

「だったら、今回も同じだろうね」

 彼が悩ましげに顎に手を当てながら言う。
 その割にさっぱりとした口調だった。

「菜乃ちゃんか仁くんか、どちらかが死なない限りループは終わらない」

「!」

 私は弾かれたように顔を上げる。

 鉛のような衝撃が落ちてくる。

 そのことを、一度も考えなかったわけじゃなかった。

 薄々気付いてはいたけれど、ずっと目を逸らし続けていただけだ。

 私か、向坂くんか────。
 ループを終わらせるためには、どちらかが必ず死ななければならない、なんて。

 そんなの、選べるわけがない。



「とはいえ、答えはもう決まってるよね。殺人鬼の仁くんのために菜乃ちゃんが死ぬ義理なんてないし、それなら────」

「やめて……!」

 私はつい、叫ぶように遮った。

 蒼くんは驚きに目を見張り、気圧されたように口を噤む。

 その先に何を言おうとしたのかは想像に易い。

(仕方ない、よね……)

 客観的に見れば、彼の意見はもっともだろう。

 自分を殺そうとする向坂くんを庇おうとする方が、よっぽど不自然だ。

 けれど、私は誰にも言えない気持ちを抱えている。

 この期に及んでも、少しも癒えない想いに傷ついている。

 何度苦しめられても、殺されても、向坂くんを好きな気持ちは少しも揺らがなくて。

 だからこそ、答えが分かっても結論を出せないでいる。

 ややあって、蒼くんが私に向き直った。

 瞳の奥を覗き込むようにして顔を傾ける。

「……もしかして」
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