純愛メランコリー

 気付かれた、と悟った。

 どのみち向坂くんへの恋心はいつか話さなきゃならない。

 でも、蒼くんはそこで言葉を切ると、緩やかに視線を逸らした。

「いや……やっぱいい」

 聞かれれば正直に認めるつもりでいたけれど、そう引き下がられると自分からは言いづらくなる。

 いずれにしても、本筋はそこじゃない。

 ループを終わらせる選択については、今は結論なんて出せないし、もっと急がなきゃいけないことがある。

 記憶の法則だ。

 いつ殺されるか分からないし、何より優先して考えるべきだろう。



「……私、何で覚えていられたんだろう」

 “昨日”とその前のこと────階段から落ちて頭を打って死んだこと、屋上から飛び降りて死んだこと。

 今度は何が、記憶を保つのに必要なアイテムなのだろう。

「“最初”は? 覚えてない?」

 再び向き直った蒼くんに問われる。

 私は思い返すように記憶を辿った。

 初めて向坂くんに殺されたときは、どんなだったんだろう。

(うーん……)

 しばらく粘ってみたけれど、駄目だった。

 理人のときみたいに思い出せない。

 あのときは夢を見て記憶が戻ったけれど、今回もそうなるとは限らない。

 そう思った瞬間、何かが過ぎった。

「!」

 不鮮明な映像。これは記憶……?

 断片的にちらついただけだが、屋上の景色が広がっている。

 目を凝らすようによく思い出そうとするほど、阻まれるみたいに頭が痛くなった。

 けれど────。



『これからは何度でも、何度でも何度でも何度でも……』

 耳に残る彼の声に、感情がざらつく。

『俺がお前を殺してやる』

 狂気染みた向坂くんの言葉と歪んだ笑みは、あまりに衝撃的過ぎて、色濃く焼きついていたみたいだ。

 それが初めて殺されたときのことなのかは分からない。

 でも、私は確かにそうして首を絞め殺されたことがあるようだ。

「大丈夫? 菜乃ちゃん」

「え……」

 不意に声をかけられ、ぱちん、と目の前で泡が弾けたような感覚がした。

 はっと彼を見やれば、心配そうな眼差しが返ってくる。

「苦しいの?」

 そう言われて初めて、自分の手が首元を押さえていたことに気が付く。

 無意識に、記憶の中の向坂くんに抗っていたみたいだ。
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