純愛メランコリー
第六章 惑い

第11話


「うぅ……っ!」

 目が覚めた瞬間、勢いよく起き上がった。

 ひりつくような喉元を押さえ、顔を歪める。

 ベッドサイドの小さなテーブルに置いてあった水を手に取り、口に流し込んだ。

 何だか喉がからからだ。
 猛烈に気分が悪い。

 あんな死に方をしたのだから、当然なのかもしれないけれど。

(まずい……)

 そう感じるのはさすがに気のせいだったけれど、洗剤のあの味はしばらく忘れられないだろう。

 また、苦痛や気持ちの悪さは残ったままだった。
 頭も割れそうだ。

 そんな不調のせいか、何となく息苦しい。

「私……」

 小さく震える両手を見下ろした。

 すぐそこまで迫ってきている死の気配に、ぞくりと背筋が冷たくなる。

 自分の命はもう本当に残りわずかなのだろう。
 不思議とそれが分かる。

 死ねるのはあと2回……いや、1回?
 分からないけれど、とにかく猶予なんてない。

 状況はまだ何一つとしてよくなっていないのに、嫌でも見えてきたリミットが私を焦らせる。

 何とかしなきゃ。
 向坂くんの殺意をどうにかしなきゃ。

 私は深いため息をこぼし、両手で顔を覆った。

「どうすればいいの……?」

 やるべきことは分かっているのに、そのための手段が見つからない。

 私の声が彼に届かなかったら?
 このまま分かり合えなかったら?

 そんなはずない、と信じようとしていた。

 でも“昨日”の向坂くんを目の当たりにしたら、その気持ちも揺らいでしまった。

 これ以上はどうにもならないのかもしれない。
 もう限界なのかもしれない。

 何とかしようって覚悟も、頑張り方も、間違っているのかもしれない。

 記憶なんてなくしたままの方がよかったのかな。

 何も知らずに殺され続けることになっても、毎朝毎朝絶望することはなかった。

 目が覚めた時点では、向坂くんを信じる気持ちは揺るがないから。

 ……その方が幸せだったのかな?

 今はもう、自分でも分からなくなってしまった。

 諦めなければ以前の彼に戻ってくれる、って信じることが正しいのかどうかさえも。

 叶わない期待は、自分を傷つける刃にしかならなくて。
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