孤独だった君に、僕の全身全霊の愛を…
独占
「━━━━あーぁ、夜まで瑛茉に会えない……」

仕事に出る真紘を玄関で見送っている、瑛茉。
真紘が瑛茉の手を握りしめ、切なく瞳を揺らしていた。

「仕事終わったら、急いで帰るから!」
「うん」

「走って帰る!」
「うん」

「全速力で!」
「うん」

「だから、真紘……ね?」

「………うん、ごめんね…瑛茉。
毎日、困らせて…」
真紘はほぼ毎朝仕事に出る時、瑛茉に駄々をこねて困らせていた。

「ううん!私も、早く会いたいし!」
「はぁ…離れたくないよ……」
握りしめた手をそのまま引き寄せて、抱き締める。

「主任にね。
話はしてるの。
昼間の仕事に変えてもらえないか。
でも私、元々はこの左目のことがあったから、夜限定で契約したの。
夜は、時給も高いしね。
だから今更難しいみたいなの。
ごめんね……」

「ううん。そっか…」



「━━━━ねぇ、どうしたらいい?」
その日のランチ。
真紘は時康と、近くの定食屋にいた。

「は?何が?」

「瑛茉のこと!」

「つか!辞めて、専業主婦にでもなってもらえばいいじゃん!
真紘が十分、養っていけるだろ?」

「言ったよ!それ!」

「え?」

「断られたの!!」

「そうなんだ……(笑)
でもなんで?
瑛茉ちゃんって、仕事人間って感じしないのに」

「“私もちゃんと、真紘を支えたい”って言って」

「へぇー!
相変わらず、しっかりしてんな!」

「はぁ……」

「ほんと“あの”真紘とは思えないな(笑)」

「は?」

「ん?高校の時の、やんちゃな真紘」

「やんちゃって…(笑)
そんな可愛いもんじゃないよ、僕は」

「まぁ、そうだな(笑)」


仕事が終わり自宅マンションに帰る。

「ただいまー」
声をかけてみるが、当然何も返事がない。

「はぁ…
会いたいなぁ」
とぼとぼと中に入る。

テーブルに瑛茉からの手紙が置いてあった。

【真紘へ
おかえり!
仕事、お疲れ様!
冷蔵庫に、夕食を作って入れてます。
もし良かったら、食べてね!
仕事終わったら急いで帰るから、待っててね!
瑛茉】

瑛茉の丁寧な字をなぞる。
自然と笑みが出た。

冷蔵庫にある夕食を温め、噛み締めるように味わうように食べる。

「美味しい……!」
気分が晴れた気がした。


数時間後、瑛茉が帰宅する。
心なしか足取りが軽い。

「ただいま、真紘ー」
< 36 / 62 >

この作品をシェア

pagetop