黒木くんが溺愛ヴァンパイアに覚醒してしまったのは、私の告白が原因だったようです。
突然の告白 (辻村胡春SIDE)


 背中には、窓から溢れる暖かな蜂蜜色の西陽が当たって、シャツにしっとり滲んだ汗。

 毎週金曜日に下されし本棚の整理を一通り終わらせた図書委員の私は、落書きされた黒板の上壁を見上げる。

 時計盤の針はとうに16:30を過ぎていた。


「ふぅ……。」

 私は再び下を向く。
 先ほど本をめくった時に切ってしまい、チクっと痛みが走った右の指先の傷口。
 ふと、反対の手でなぞると、血液が付着した。

「ーおい、辻村。」

 私は背後から突如として破られた沈黙に動揺し、肩をびくつかせてしまう。

 目の前に立つすらりとした細身の高身長を持つ男子生徒は、黒木蒼夜(くろきそうや)くん。
 彼は、同じ2年A組に在籍するもう一人の図書委員である。

「何かあったのか?ため息なんかついちゃってさ。」

 そして相変わらず、国宝級イケメンと称しても過言ではないほどの美貌の持ち主でもあった。

 フランス人形のように均整のとれた顔立ち。
 ニキビのひとつとない色白で、すべすべとした肌。
 色気がダダ漏れのくっきりとした二重の大きなアーモンド型の猫目。
 それを縁取る流れるような長い睫毛と、ぷっくりとふくらんだ涙袋の影。

 癖のある黒髪の生え際をぽりぽりとかきむしりながら、心配そうに目を細める仕草に私は不覚にもドキッとしてしまった。

 成績も非常に優秀で、県内でも5本の指に入る進学校と謳われる1学年400人のこの高校に、首席で合格したという噂もある。

 おまけにスポーツ万能でもあるとは、「天は二物を与えず」ということわざも信用ならない。
 
 しかし、ため息の要因を尋ねた完璧人間の彼こそ、私の心身疲労の原因であるのだった。

 元々、私立黒薔薇高等学院の図書室は人気が異様に少ない。
 放課後にこの場が解放されていることを誰も知らないのではと疑ってしまうほどだ。

 そして、本日は、なぜだかいつにも増して訪問者は少な…いや、誰もいない。

 おかげさまで、同性同士でも上手く話せない人見知り重症の私は、先程まで彼とふたりきりの空間で、とてつもなく気まずい思いを味わっていたのだった。

 唐突に話しかけられ、咄嗟に

 (久しぶりだね、)

と口にするシミュレーションをしかけたものの、うっかり彼の蕩ける甘い低音ボイスに聞き惚れてしまう。
 大慌てで平常心に戻り、返事をしようとしたが、脳がバグってうまくいかなかった。

 その間に、黒木くんは私の手を、ケモノのように食い入った目でじっと見つめている。
 
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