黒木くんが溺愛ヴァンパイアに覚醒してしまったのは、私の告白が原因だったようです。
距離はどんどこ近づいていく (辻村胡春SIDE)

 「それでは、6時間目の授業を終わりますね。ありがとうございました。」

全授業終了の放送の鐘が

「キーンコーンカーンコーン。」

と鳴ってから3分後。

 2年A組の英語担当である年配女性、花岡先生がゆったりとした口調で告げて、教室を後にした瞬間、

「胡春!」

と満面の笑顔を浮かべた黒木くんは、間髪入れずに(ちゃっかり私の名前を呼びながら)席に駆け寄ると、ぽんと私の肩に手を乗せてくる。
 
「どうしたの?黒木くん。」

 すると彼は、悲しげに眉をひそめて、

「言っただろ。蒼夜、な。」

とか細い声で呟いてしまう。

 ああ。そして私は、彼の笑顔だけではなく、切なげな表情にも弱いのだ。

「……そ、そうやくん…!」
 
羞恥心で顔を赤らめつつも訂正すると

「まあ…今はいっか。」

と乾いた笑いを私に向ける。

 今は、ってどういうことかと首を傾げていれば、く…そそ蒼夜くんはどさくさに紛れて、手のひらで私の頭上を撫でまわしていく。
 元から癖っ毛の髪は、ボサッと暴発してしまったものの、それより私は、バクバクと高鳴る心拍数の方が心配である。

 (距離が、近すぎるよ…。)

 あまつさえ蒼夜くんは身が持たなくなっている私の耳元に

「あ、そうそう。今日も図書室に来いよ…」

と甘い低音ボイスと共に、吐息をふうっと吹きかけるので、産毛はぶわっと立ち上がってしまうのだった。
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