黒木くんが溺愛ヴァンパイアに覚醒してしまったのは、私の告白が原因だったようです。
黒木蒼夜にウチの胡春はもったいない。(壺井菜々子SIDE)

 私の親友、辻村胡春と初めて同じクラスになったのは小学4年生の時。
 彼女への第一印象は、「あざとかわいい女だな。」だった。

 しかし、一つ後ろの席から日々観察していくうち、衝撃的な結果に辿り着いてしまう。

 (こいつは無自覚の天然ちゃんだな…。)

 ぱっちりと開き潤んだ瞳。
 小動物的な美少女で庇護欲を、無意識にそそってくる彼女。
 なんとも罪深い。
 こんな魔性の女を私は知らなかった。

 純粋無垢。穢したくなる。男性恐怖症。人見知り。ほんわかおっとり系。穏やか。無条件の優しさ。
 彼女を辞書引きしたらこんな説明が綴られるだろう。
 しかし彼女は、全く持って自身の魅力に気づいていなかった。
 その愛らしい容貌と性格から男子生徒には密かに遠くから拝まれているというのに。
 
 彼女が片想いしていたあのヴァンパイアの野郎は、明らかにいっつも胡春にいやらしい情熱的な瞳を向けていた。

 (気持ち悪いったらありゃしない!)

 それなのに、まだ愛の言葉を本人に伝えてあげてないなんて。

 黒木の熱狂的なファンでさえ、可愛い可愛い胡春とはあまりにお似合いすぎてぐうの音も出ない。
 当たり前だ。

 (むしろ、黒木に胡春は釣り合わない!)


 胡春には、ほんとにもったいない男だけど、彼女に免じてちょっと意地悪したくらいで許そう。
 黒木の野郎、今は胡春欠乏症になってるだろうな。

 私は鏡で二人の未来を覗き込む。

 罪悪感はあるけどまあ良い。
 預言者の末裔の名にかけてどっちにしろ、二人は結ばれるんだからね。

 壺井菜々子は、あははと不気味な笑いを漏らしている。
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